過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とシノプシスへの投資についてコメントします。
会社概要
シノプシス(Synopsys、SNPS)
ホームページ(IR):リンク先
国:アメリカ
セクター:情報技術
産業グループ:ソフトウェア・サービス
サブ産業グループ:アプリケーション・ソフトウェア
株式時価総額:421億ドル(2021年6月末)
シノプシスは、アメリカに本拠を置く、半導体回路設計用ソフトウェア(EDA)の最大手です。
EDA(Electronic Design Automation)は、半導体や電子機器の設計作業を自動化するソフトウェアで、開発のスピードや安全基準を保つために使われます。
スマートフォンや自動運転などに搭載される半導体が複雑になっていることから、EDAは半導体設計に必要不可欠と言えますが、高い技術力を要することから新規参入が困難で、アメリカ3社(シノプシス、ケイデンス、メンター・グラフィックス)による寡占状態となっています。
アメリカ政府の対中制裁によって、シノプシスはファーウェイとの取引を停止しました。
(参考)競合他社(アプリケーション・ソフトウェア)の株式時価総額(2021年6月末)
株式時価総額 (億ドル) | |
アドビ(ADBE) | 2,799 |
セールスフォース(CRM) | 2,262 |
SAP(SAP) | 1,657 |
イントゥイット(INTU) | 1,339 |
ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ZM) | 1,140 |
アトラシアン(TEAM) | 642 |
オートデスク(ADSK) | 642 |
ダッソー・システムズ(DSY.PA) | 636 |
ワークデイ(WDAY) | 590 |
ドキュサイン(DOCU) | 545 |
パランティアテクノロジーズ(PLTR) | 495 |
シノプシス(SNPS) | 421 |
ケイデンス・デザイン・システムズ(CDNS) | 381 |
トレードデスク(TTD) | 368 |
コンステレーション・ソフトウェア(CSU.TO) | 321 |
データドッグ(DDOG) | 321 |
ユニティ・ソフトウェア(U) | 307 |
アンシス(ANSS) | 302 |
ハブスポット(HUBS) | 272 |
リングセントラル(RNG) | 264 |
売上高(セグメント別、地域別)の推移
FY2020(2019年11月-2020年10月期)の売上高は37億ドルと、前年度比+9.7%、過去5年間で年率+10.4%となりました。
2021Q3(2021年5−7月期)の売上高は10.6億ドル(前年同期比+9.6%)と、コンセンサス(10.5億ドル)を上回りました。
セグメント別の売上高は、以下の通りです。
・EDA:5.9億ドル、前年同期比+11%
・IP&システム インテグレーション:3.6億ドル、前年同期比+8%
・ソフトウェア インテグリティ:1.0億ドル、前年同期比+5%
セグメント別の売上高構成比は、EDAが56%を占めます。
地域別の売上高は、以下の通りです。
・北米:4.9億ドル、前年同期比+10%
・欧州:1.1億ドル、前年同期比+20%
・韓国:1.1億ドル、前年同期比+15%
・中国:1.6億ドル、前年同期比+2%
・その他:1.8億ドル、前年同期比+8%
利益の推移
FY2020の営業利益は6.2億ドルと、前年度比+19.2%、過去5年間で年率+18.4%となりました。
営業利益率は16.8%と、前年度の15.5%から改善しました。
2021Q3の営業利益は2.0億ドル(前年同期比▲4.1%)となりました。
2021Q3のEPSは1.27ドルと、コンセンサス(1.35ドル)を下回りました。
非GAAP EPSは1.81ドル(前年同期比+4.0%)と、コンセンサス(1.78ドル)を上回りました。
キャッシュフローの推移
FY2020の営業キャッシュフローは9.9億ドルと、前年度比+23.8%、過去5年間で年率+14.9%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は26.9%と、前年度の23.8%から改善しました。
2021Q3の営業キャッシュフローは4.2億ドル(前年同期比+5.6%)となりました。
FY2020のフリーキャッシュフローは8.3億ドルと、前年度比+39.2%、過去5年間で年率+15.5%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は22.6%と、前年度の17.8%から悪化しました。
2021Q3のフリーキャッシュフローは3.5億ドル(前年同期比▲1.6%)となりました。
株主還元(配当、自社株買い)の推移
無配ですが、自社株買いに積極的です。
(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2020の益利回り(PERの逆数)は2.0%、フリーキャッシュフロー利回りは2.5%です。
(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
(参考)過去5年間の発行済株式数
発行済株式数は、過去5年間で年率▲0.3%となりました。
売上高およびEPSの実績値とコンセンサスの推移
売上高の実績値(コンセンサス比)は、過去9四半期中、9勝です。
EPSの実績値(コンセンサス比)は、過去9四半期中、6勝、3敗です。
非GAAP EPSの実績値(コンセンサス比)は、過去9四半期中、9勝です。
売上高(億ドル) | GAAP EPS(ドル) | 非GAAP EPS(ドル) | |||||||
実績値 | コンセンサス | 勝敗 | 実績値 | コンセンサス | 勝敗 | 実績値 | コンセンサス | 勝敗 | |
2019Q3 | 8.5 | 8.3 | ○ | 0.65 | 0.68 | × | 1.18 | 1.10 | ○ |
2019Q4 | 8.5 | 8.5 | ○ | 1.04 | 0.77 | ○ | 1.15 | 1.13 | ○ |
2020Q1 | 8.3 | 8.2 | ○ | 0.67 | 0.53 | ○ | 1.01 | 0.92 | ○ |
2020Q2 | 8.6 | 8.4 | ○ | 0.71 | 0.57 | ○ | 1.22 | 0.99 | ○ |
2020Q3 | 9.6 | 8.9 | ○ | 1.62 | 1.05 | ○ | 1.74 | 1.34 | ○ |
2020Q4 | 10.3 | 10.2 | ○ | 1.26 | 1.15 | ○ | 1.58 | 1.57 | ○ |
2021Q1 | 9.7 | 9.5 | ○ | 1.03 | 1.07 | × | 1.52 | 1.46 | ○ |
2021Q2 | 10.2 | 9.9 | ○ | 1.24 | 1.02 | ○ | 1.70 | 1.53 | ○ |
2021Q3 | 10.6 | 10.5 | ○ | 1.27 | 1.35 | × | 1.81 | 1.78 | ○ |
株価上昇率
FY2020の株価上昇率は+57.5%と、S&P500(+7.7%)を上回りました。
過去5年間(2015年11月から2020年10月末)の株価上昇率は年率+33.7%と、S&P500(年率+9.5%)を大きく上回りました。
2021Q3の株価上昇率は+16.6%と、S&P500(+5.1%)を上回りました。
競合他社(アプリケーション・ソフトウェア)の株価上昇率(DSY.PAはユーロ建て、CSU.TOはカナダドル建て、その他はUSドル建て)は、以下の通りです。
シノプシス(SNPS)の株価上昇率は、2020年の1年間で+86%と、18社平均(+103%)を下回り、18社中第9位となりました。
2018年1月から2020年12月の3年間では+204%と、15社平均(+311%)を下回り、15社中第6位となりました。
過去10年間(2011年9月から2021年8月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
ドローダウンは小さめで、最高値から10〜15%程度下落すると反発する傾向にあるため、その時が狙い目です。
(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。
DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを6.4%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億ドル)の推移となります。
① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+50%、2年目〜5年目+20%、6年目〜10年目+10%。11年目以降の永続成長率は0%。
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+50%、2年目〜5年目+20%、6年目〜10年目+15%。11年目以降の永続成長率は0%。
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+50%、2年目〜10年目+10%。11年目以降の永続成長率は0%。
メインシナリオの目標株価は343ドルとなります。
・メインシナリオ:343ドル
・アップサイドシナリオ:408ドル
・ダウンサイドシナリオ:249ドル
シノプシス(Synopsys、SNPS)への投資について
2021Q3(2021年5−7期)の売上高は10.6億ドル(コンセンサス10.5億ドル)、非GAAP EPSは1.81ドル(コンセンサス1.78ドル)と、コンセンサスを上回る実績となりました。
2021Q4のガイダンスは、以下の通りです。
・売上高:11.38〜11.68億ドル(コンセンサス10.4億ドル)
・非GAAP EPS:1.75〜1.80ドル(コンセンサス1.48ドル)
FY2021のガイダンスは、以下の通りです。
・全体:41.90〜42.20億ドル
・非GAAP EPS:6.78〜6.83ドル
DCF法による目標株価は343ドルのため、2021年8月末時点の株価332ドルとほぼ同水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が2.8倍(年率+11%)、10年後に向けてフリーキャッシュフローマージンが40%まで上昇することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
半導体の複雑化によるEDAの需要が高まりや、業界の寡占状態から、引き続き安定した業績拡大が期待できます。