過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とアドビへの投資についてコメントします。
会社概要
アドビ(Adobe、ADBE)
ホームページ(SECファイル):リンク先
国:アメリカ
セクター:情報技術
産業グループ:ソフトウェア・サービス
サブ産業グループ:アプリケーション・ソフトウェア
株式時価総額:2,698億ドル(世界ランキング第31位、2021年12月末)
アドビは、アメリカに本拠を置く、画像編集ソフトや動画編集ソフトなどの編集ツールおよびPDFや電子署名(デジタルメディア事業)に加え、顧客体験管理をスムーズにするなど法人向けマーケティングのサポート(デジタルエクスペリエンス事業)向けのソフトウェアを、サブスクリプション形態を中心にクラウド上で提供する企業です。
デジタルメディア事業は、アドビ・クリエイティブ・クラウド(Adobe Creative Cloud)とアドビ・ドキュメント・クラウド(Adobe Document Cloud)から構成されます。
アドビ・クリエイティブ・クラウドは、Photoshop(写真加工)やIllustrator(グラフィックデザイン)、Premiere Pro(映像編集)などのツールをサブスクリプションで利用することができます。
アドビ・ドキュメント・クラウドは、Acrobat Reader(PDFの閲覧等)、Acrobat DC(パスワード機能等)、Adobe Sign(電子契約機能)等があります。
(参考)競合他社(情報処理・外注サービス)の株式時価総額(2021年12月末)
株式時価総額 | |
アドビ(ADBE) | 2,698億ドル |
セールスフォース(CRM) | 2,503億ドル |
イントゥイット(INTU) | 1,821億ドル |
SAP(SAP) | 1,670億ドル |
アトラシアン(TEAM) | 964億ドル |
ダッソー・システムズ(DSY.PA) | 779億ドル |
ワークデイ(WDAY) | 683億ドル |
オートデスク(ADSK) | 619億ドル |
シノプシス(SNPS) | 565億ドル |
データドッグ(DDOG) | 556億ドル |
ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ZM) | 548億ドル |
ケイデンス・デザイン・システムズ(CDNS) | 516億ドル |
トレードデスク(TTD) | 440億ドル |
ユニティ・ソフトウェア(U) | 418億ドル |
コンステレーション・ソフトウェア(CSU.TO) | 394億ドル |
パランティアテクノロジーズ(PLTR) | 365億ドル |
アンシス(ANSS) | 350億ドル |
ハブスポット(HUBS) | 311億ドル |
ドキュサイン(DOCU) | 301億ドル |
ナイス(NICE) | 192億ドル |
スプランク(SPLK) | 184億ドル |
リングセントラル(RNG) | 174億ドル |
売上高(セグメント別、地域別)の推移
FY2021(2020年12月-2021年11月期)の売上高は158億ドルと、前年度比+22.7%、過去5年間で年率+22.0%となりました。
セグメント別の売上高は、以下の通りです。
・デジタルメディア:115億ドル、前年度比+25%
・デジタルエクスペリエンス:39億ドル、前年度比+24%
・出版&広告:4億ドル、前年度比▲22%
セグメント別の売上高構成比は、デジタルメディアが73%を占めます。
デジタルメディア売上高の内訳は、以下の通りです。
・クリエイティブクラウド:95億ドル、前年度比+23%
・ドキュメントクラウド:20億ドル、前年度比+32%
地域別の売上高構成比は、アメリカが57%、欧州が27%、アジアパシフィックが16%を占めます。
利益の推移
FY2021の営業利益は58億ドルと、前年度比+36.9%、過去5年間で年率+31.1%となりました。
営業利益率は36.8%と、前年度の32.9%から改善しました。
FY2021の非GAAP EPSは12.48ドルと、前年度比+23.6%、過去5年間で年率+32.9%となりました。
キャッシュフローの推移
FY2021の営業キャッシュフローは72億ドルと、前年度比+26.2%、過去5年間で年率+26.9%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は45.8%と、前年度の44.5%から改善しました。
FY2021のフリーキャッシュフローは68億ドルと、前年度比+29.2%、過去5年間で年率+28.7%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は43.3%と、前年度の41.1%から改善しました。
株主還元(配当、自社株買い)の推移
無配ですが、自社株買いに積極的です。
(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2021の益利回り(PERの逆数)は1.5%、フリーキャッシュフロー利回りは2.1%です。
(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
(参考)過去5年間の発行済株式数
発行済株式数は、過去5年間で年率▲0.9%となりました。
売上高およびEPSの実績値とコンセンサスの推移
売上高の実績値(コンセンサス比)は、過去12四半期中、11勝、1敗です。
非GAAP EPSの実績値(コンセンサス比)は、過去12四半期中、11勝、1引き分けです。
売上高(億ドル) | 非GAAP EPS(ドル) | |||||
実績値 | コンセンサス | 勝敗 | 実績値 | コンセンサス | 勝敗 | |
2019Q3 | 28 | 28 | ○ | 2.05 | 1.97 | ○ |
2019Q4 | 30 | 30 | ○ | 2.29 | 2.26 | ○ |
2020Q1 | 31 | 31 | ○ | 2.27 | 2.23 | ○ |
2020Q2 | 31 | 32 | × | 2.45 | 2.32 | ○ |
2020Q3 | 32 | 32 | ○ | 2.57 | 2.41 | ○ |
2020Q4 | 34 | 34 | ○ | 2.81 | 2.66 | ○ |
2021Q1 | 39 | 38 | ○ | 3.14 | 2.79 | ○ |
2021Q2 | 38 | 37 | ○ | 3.03 | 2.82 | ○ |
2021Q3 | 39 | 39 | ○ | 3.11 | 3.02 | ○ |
2021Q4 | 41 | 41 | ○ | 3.20 | 3.20 | ▲ |
2022Q1 | 43 | 42 | ○ | 3.37 | 3.34 | ○ |
2022Q2 | 44 | 44 | ○ | 3.35 | 3.31 | ○ |
ROICの推移
ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したか(投資効率)を測る指標となります。
正確な計算方法はないため、ここでは、税引後営業利益/投下資本(=運転資本+有形固定資産(リース含む)+無形固定資産+在庫+のれん)として計算しています。
少なくともWACC(加重平均資本コスト)を超えることが絶対条件と言われています。
過去5年間のROICは20〜30%と、投資効率は比較的高いです。
株価上昇率
FY2021(2020年12月から2021年11月末)の株価上昇率は+40.0%と、S&P500(+26.1%)を上回りました。
過去5年間(2016年12月から2021年11月末)の株価上昇率は年率+45.5%と、S&P500(年率+15.7%)を大きく上回りました。
競合他社(アプリケーション・ソフトウェア)の株価上昇率(DSY.PAはユーロ建て、CSU.TOはカナダドル建て、その他はUSドル建て)は、以下の通りです。
アドビ(ADBE)の株価上昇率は、2021年の1年間で+13%と、22社平均(+16%)を下回り、22社中第12位となりました。
2019年1月から2021年12月の3年間では+151%と、18社平均(+217%)を下回り、18社中第12位となりました。
過去10年間(2012年7月から2022年6月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
足もとは大幅なドローダウンです。
(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。
DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを7.6%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億ドル)の推移となります。
① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+5%、2年目〜3年目+15%、4年目〜10年目+10%。11年目以降の永続成長率は0%。
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+15%、2年目〜3年目+20%、4年目〜10年目+15%。11年目以降の永続成長率は0%。
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+5%、2年目〜7年目+10%、8年目〜10年目+0%。11年目以降の永続成長率は0%。
メインシナリオの目標株価は413ドルとなります。
・メインシナリオ:413ドル
・アップサイドシナリオ:626ドル
・ダウンサイドシナリオ:316ドル
アドビ(Adobe、ADBE)への投資について
FY2021の売上高は158億ドル(前年度比+22.7%)、非GAAP EPSは12.48ドル(前年度比+23.6%)、フリーキャッシュフローは68億ドル(前年度比+29.2%)となりました。
FY2022のガイダンスは、以下の通りです。
・売上高:〜176.5億ドル
・非GAAP EPS:〜13.50ドル
DCF法による目標株価は413ドルのため、2022年6月末時点の株価366ドルより高い水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が2.6倍(年率+10%)、10年後に向けてフリーキャッシュフローマージンが45%まで上昇することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
マイクロソフトのように、安定した成長は魅力的です。
業績は好調ですが、金利上昇やドル高等の影響を受けて、ソフトウェア株全般の株価が絶不調です。