過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とTモバイルUSへの投資についてコメントします。
会社概要
TモバイルUS(T-Mobile US, Inc.、TMUS)
ホームページ(SEC):リンク先
国:アメリカ
セクター:コミュニケーション・サービス
産業グループ:電気通信サービス
サブ産業グループ:総合電気通信サービス
株式時価総額:1,806億ドル(世界ランキング第68位、2021年6月末)
TモバイルUSは、アメリカに本拠を置く、契約件数がベライゾンに次ぐ米国第2位の大手携帯電話事業者です。
2020年4月に、スプリントと合併しました。
TモバイルUSの大株主は、ドイツテレコムが約43%、ソフトバンクグループが約8.5%です。
(参考)競合他社(電気通信サービス)の株式時価総額(2021年6月末)
株式時価総額 (億ドル) | |
ベライゾン(VZ) | 2,320 |
AT&T(T) | 2,063 |
TモバイルUS(TMUS) | 1,806 |
ソフトバンクグループ(9984.T) | 1,195 |
チャイナ・モバイル(0941.HK) | 1,280 |
ドイツ・テレコム(DTE.GE) | 1,010 |
NTT(9432.T) | 952 |
KDDI(9433.T) | 703 |
ソフトバンク(9434.T) | 614 |
ボーダフォン・グループ(VOD) | 477 |
アメリカ・モービル(AMX) | 497 |
BCE(BCE) | 448 |
売上高(セグメント別)の推移
FY2020(2020年1月-2020年12月期)の売上高は684億ドルと、前年度比+52.0%、過去5年間で年率+16.1%となりました。

FY2020の1株あたり売上高は前年度比+13.5%、過去5年間で年率+8.7%となり、PSR(株価は各会計年度末)は2.3倍となりました。

セグメント別の売上高は、以下の通りです。
・携帯電話(月額払い):363億ドル、前年度比+60%
・携帯電話(プリペイド):94億ドル、前年度比▲1%
・企業向け:26億ドル、前年度比+103%
・ローミング等:21億ドル、前年度比+107%
・デバイス:173億ドル、前年度比+76%
・その他:7億ドル、前年度比+5%

セグメント別の売上高構成比は、携帯電話(月額払い)が53%を占めます。

2020年12月末の契約件数は1.02億(前年度比+50%)、携帯電話(月払い)契約件数の純増数は前年度比+222万となりました。

利益の推移
FY2020の非GAAP EBITDAは246億ドルと、前年度比+83.5%、過去5年間で年率+27.1%となりました。
非GAAP EBITDAマージンは35.9%と、前年度の29.7%より改善しました。

FY2020のEPSは2.65ドルと、前年度比▲34.1%、過去5年間で年率+26.4%となりました。

キャッシュフローの推移
FY2020の営業キャッシュフローは86億ドルと、前年度比+26.6%、過去3年間で年率+31.1%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は12.6%と、前年度の15.2%から悪化しました。

FY2020のフリーキャッシュフローは30億ドルと、前年度比▲30.5%、過去3年間で年率+3.3%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は4.4%と、前年度の9.6%から悪化しました。

株主還元(配当、自社株買い)の推移
FY2020は、195億ドルの自社株買いを実施しました。
無配です。

(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2020の益利回り(PERの逆数)は2.0%、フリーキャッシュフロー利回りは1.9%です。

(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向

(参考)過去5年間の発行済株式数
発行済株式数は、過去5年間で年率+6.8%となりました。
スプリントとの合併で、発行済株式数が急増しました。

ROICの推移
ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したか(投資効率)を測る指標となります。
正確な計算方法はないため、ここでは、税引後営業利益/投下資本(=運転資本+有形固定資産(リース含む)+無形固定資産+在庫+のれん)として計算しています。
少なくともWACC(加重平均資本コスト)を超えることが絶対条件と言われています。
過去3年間のROICは1桁です。

有利子負債の推移
FY2020の純有利子負債(有利子負債(リース含む)−現金等)は969億ドルと、高水準です。

売上高およびEPSの実績値とコンセンサスの推移
以下のグラフは、売上高のコンセンサスおよび実績値の推移となります。
過去9四半期中、5勝、4敗です。

以下のグラフは、EPSのコンセンサスおよび実績値の推移となります。
過去9四半期中、8勝、1敗です。

株価上昇率
FY2020(2020年1月から2020年12月末)の株価上昇率は+72.0%と、S&P500(+16.3%)を上回りました。
過去5年間(2016年1月から2020年12月末)の株価上昇率は年率+28.1%と、S&P500(年率+12.9%)を大きく上回りました。

競合他社(電気通信サービス)の株価上昇率(9984.T、9432.T、9433.T、9434.Tは日本円建て、0941.HKは香港ドル建て、DTE.GEはユーロ建て)は、以下の通りです。
TモバイルUS(TMUS)の株価上昇率は、2020年の1年間で+72%と、12社平均(+2%)を上回り、12社中第1位となりました。
2018年1月から2020年12月の3年間では+112%と、11社平均(+6%)を上回り、11社中第1位となりました。

過去10年間(2011年6月から2021年5月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
最高値から10%程度下落すると反発する傾向にあるため、その時が狙い目です。

(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。

DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを4.5%、金利が1%上昇した場合は5.3%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億ドル)の推移となります。

① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+70%、2年目〜7年目+15%、8年目〜10年目+10%。11年目以降の永続成長率は0%。
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+70%、2年目〜3年目+20%、4年目〜10年目+15%。11年目以降の永続成長率は0%。
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+70%、2年目〜10年目+10%。11年目以降の永続成長率は0%。
メインシナリオの目標株価は170ドルとなります。

TモバイルUS(T-Mobile US, Inc.、TMUS)への投資について
FY2020(2020年1月-2020年12月期)の売上高は684億ドル(前年度比+52.0%)、非GAAP EBITDAは246億ドル(前年度比+83.5%)と、スプリントとの合併により、大幅増収となりました。
FY2021のガイダンスは、以下の通りです。
・営業キャッシュフロー:132〜136億ドル
・フリーキャッシュフロー:51〜55億ドル
DCF法による目標株価は170ドルのため、2021年5月末時点の株価141ドルより高い水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が3.4倍(年率+13%)、10年後に向けてフリーキャッシュフローマージンが7%まで上昇することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
この1年間で株価は急上昇したことから、しばらく横ばいが続くかもしれませんが、中期的に株価上昇が期待できます。
個人投資家の場合、電気通信サービスはベライゾンやAT&T等の高配当企業へ投資することが一般的ですが、TモバイルUSは電気通信サービスの数少ない成長株ということでユニークです。








