過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とベライゾンへの投資についてコメントします。
会社概要
ベライゾン・コミュニケーションズ(Verizon Communications、VZ)
ホームページ(SECファイル):リンク先
国:アメリカ
セクター:コミュニケーション・サービス
産業グループ:電気通信サービス
サブ産業グループ:総合電気通信サービス
株式時価総額:1,655億ドル(世界ランキング第56位、2022年12月末)
ベライゾンは、アメリカに本拠を置く、通信やエンターテインメントを提供する、アメリカ最大の通信会社です。
2015年にAOL、2017年にヤフーを買収しましたが、2021年にヤフーやAOLを含むメディア事業を50億ドルで売却し、当該メディア事業(ヤフーへ名称変更)の株式10%を保有しています。
売上高(セグメント別)の推移
FY2022(2022年1-12月期)の売上高は1,368億ドルと、前年度比+2.4%、過去5年間で年率+1.7%となりました。
FY2022の無線通信(月額払い)契約件数の純増数は+261万件(前年度比+23%)となりました。
セグメント別の売上高は、以下の通りです。
・消費者向けサービス:731億ドル、前年同期比+8%
・消費者向け携帯機器:232億ドル、前年同期比+17%
・消費者向けその他:72億ドル、前年同期比▲8%
・企業向け:311億ドル、前年同期比+0%
セグメント別の売上高構成比は、消費者向けサービスが54%、企業向けが23%を占めます。
利益(セグメント別)の推移
FY2022の非GAAP EBITDAは479億ドルと、前年度比▲1.1%、過去5年間で年率+1.6%となりました。
非GAAP EBITDAマージンは35.0%と、前年度の36.2%から悪化しました。
セグメント別の非GAAP EBITDAマージンは、以下の通りです。
FY2022の非GAAP EPSは5.18ドルと、前年度比▲5.8%、過去5年間で年率+6.7%となりました。
キャッシュフローの推移
FY2022の営業キャッシュフローは371億ドルと、前年度比▲6.1%、過去5年間で年率+8.0%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は27.1%と、前年度の29.6%から悪化しました。
FY2022のフリーキャッシュフローは141億ドルと、前年度比▲27.0%、過去5年間で年率+13.5%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は10.3%と、前年度の14.4%から悪化しました。
株主還元(配当、自社株買い)の推移
自社株買いの実施はなしです。
(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2022の益利回り(PERの逆数)は12.8%、フリーキャッシュフロー利回りは8.5%と、バリュエーション面では割安感があります。
FY2022の配当利回りは6.6%です。
(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
FY2022の配当性向は、フリーキャッシュフローベースで77%と高い水準です。
(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)
FY2022のDPSは2.59ドルと、前年度比+2.0%、過去5年間で年率+2.1%となりました。
(参考)過去5年間の発行済株式数
発行済株式数は、過去5年間で年率+0.6%となりました。
ROICの推移
ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したか(投資効率)を測る指標となります。
正確な計算方法はないため、ここでは、税引後営業利益/投下資本(=運転資本+有形固定資産(リース含む)+無形固定資産+在庫+のれん)として計算しています。
少なくともWACC(加重平均資本コスト)を超えることが絶対条件と言われています。
過去5年間のROICは概ね7%程度と低い水準です。
有利子負債の推移
FY2022の有利子負債(リース含む)は約1,800億ドルと、高水準です。
株価上昇率
FY2022の株価上昇率は▲24.2%と、S&P500(▲19.4%)を下回りました。
過去5年間(2018年1月から2022年12月末)の株価上昇率は年率▲5.7%と、S&P500(年率+7.5%)を大きく下回りました。
過去10年間(2013年8月から2023年7月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
ドローダウンからの全回復が遅い傾向にあります。
(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。
ここ3年間株価は下落基調にあり、上昇トレンドに転換して最高値を更新するまで非常に時間がかかりそうです。
DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを5.2%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億ドル)の推移となります。
① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜3年目+0%、4年目〜10年目+3%。11年目以降の永続成長率は0%
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+0%、2年目〜10年目+5%。11年目以降の永続成長率は0%
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜10年目-+0%。11年目以降の永続成長率は0%
メインシナリオの目標株価は33ドルとなります。
・メインシナリオ:33ドル
・アップサイドシナリオ:50ドル
・ダウンサイドシナリオ:23ドル
ベライゾン・コミュニケーションズ(Verizon Communications、VZ)への投資について
FY2022の売上高は1,368億ドル(前年度比+2.4%)、非GAAP EPSは5.18ドル(前年度比▲5.8%)、フリーキャッシュフローは141億ドル(前年度比▲27.0%)となりました。
DCF法による目標株価は33ドルのため、2023年7月末時点の株価34ドルとほぼ同水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が1.2倍(年率+2%)、フリーキャッシュフローマージンが横ばいで推移することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
競争が激しいことに加え、巨大な設備投資が必要にも関わらず、売上高の成長が乏しいことから、長期的にみて市場平均を上回る株価上昇は期待できません。
配当利回りが高い点は魅力的にみえますが、フリーキャッシュフローの改善が見えない限り株価が急回復するのは難しいと言えます。
AT&Tよりは魅力的ですが、配当重視であれば日本の大手通信会社で十分という考えに変更なしです。