AT&T(T)決算分析と目標株価 メディア事業をスピンオフ フリーキャッシュフローは減少し減配へ

AT&T電気通信サービス

過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とAT&Tへの投資についてコメントします。

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会社概要

AT&T(AT&T、T)

ホームページ(SECファイル):リンク先

国:アメリカ

セクター:コミュニケーション・サービス

産業グループ:電気通信サービス

サブ産業グループ:総合電気通信サービス

株式時価総額:1,312億ドル(世界ランキング第85位、2022年12月末)

AT&Tは、アメリカに本拠を置く、大手通信会社です。

2018年に約850億ドルで買収したワーナーメディア事業を430億ドルで分社化し、リアリティ番組に強みを持つメディア大手ディスカバリーと統合して、2022年に新会社であるワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(AT&Tが約7割、ディスカバリーが約3割の株式を保有)を設立することを発表しました。スピンオフにより、AT&Tの株式1株に対して、ワーナーブラザーズの株式0.24株を割り当てられました。

 

売上高(セグメント別)の推移

FY2022(2022年1-12月期)の売上高は1,207億ドルと、前年度比▲9.9%、過去5年間で年率▲5.5%となりました。

 

FY2022の無線通信(月額払い)契約件数の純増数は+409万件、携帯電話(月額払い)の契約件数は+287万件となりました。

 

利益(セグメント別)の推移

FY2022の非GAAP EBITDAは415億ドルと、前年度比▲5.5%、過去5年間で年率▲3.4%となりました。

非GAAP EBITDAマージンは34.3%と、前年度の32.7%から改善しました。

 

FY2022の非GAAP EPSは2.57ドルと、前年度比+6.6%、過去5年間で年率▲3.4%となりました。

 

キャッシュフローの推移

FY2022の営業キャッシュフローは358億ドルと、前年度比▲3.7%、過去5年間で年率▲1.2%となりました。

営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は29.7%と、前年度の27.7%から改善しました。

 

株主還元(配当、自社株買い)の推移

配当が中心で自社株買いに消極的です。

 

(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)

FY2022の非GAAP 益利回り(PERの逆数)は14.0%、フリーキャッシュフロー利回りは12.2%と、バリュエーション面では割安感があります。

FY2022の配当利回りは6.0%と、減配により低下しました。

 

(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向

FY2022の配当性向は、キャッシュフローベースで5割程度です。

 

(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)

FY2022のDPSは1.11ドルと、前年度比▲46.6%、過去5年間で年率▲10.8%となりました。

 

(参考)過去5年間の発行済株式数

発行済株式数は、過去5年間で年率+3.1%となりました。

 

ROICの推移

ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したか(投資効率)を測る指標となります。

正確な計算方法はないため、ここでは、税引後営業利益/投下資本(=運転資本+有形固定資産(リース含む)+無形固定資産+在庫+のれん)として計算しています。

少なくともWACC(加重平均資本コスト)を超えることが絶対条件と言われています。

過去5年間のROICは低水準で、投資効率は低いです。

 

有利子負債の推移

FY2022の有利子負債(リース含む))は1,545億ドルと、スピンオフにより削減されました。

 

株価上昇率

FY2022の株価上昇率は▲0.9%と、S&P500(▲19.4%)を上回りました。

過去5年間(2018年1月から2022年12月末)の株価上昇率は年率▲8.9%と、S&P500(年率+7.5%)を大きく下回りました。

 

過去10年間(2013年8月から2023年7月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。

2016年7月の最高値からドローダウン更新中です。

 

(参考)株価の推移(月末株価)

通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。

この10年間厳しい結果となっており、上昇トレンドまでしばらく時間がかかりそうです。

 

DCF法による目標株価

DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。

以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。

なお、WACCを6.2%と推計しました。

以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億ドル)の推移となります。

① メインシナリオ

 フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜10年目+0%。11年目以降の永続成長率は0%

② アップサイドシナリオ

 フリーキャッシュフローの成長率:1年目+0%、2年目〜10年目+3%。11年目以降の永続成長率は0%

③ ダウンサイドシナリオ

 フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜2年目+0%、3年目〜10年目▲2%。11年目以降の永続成長率は0%

メインシナリオの目標株価は15ドルとなります。

・メインシナリオ:15ドル

・アップサイドシナリオ:23ドル

・ダウンサイドシナリオ:11ドル

AT&T(AT&T、T)への投資について

FY2022の売上高は1,207億ドル(前年度比▲9.9%)、非GAAP EBITDAは415億ドル(前年度比▲5.5%)と、フリーキャッシュフローは162億ドル(前年度比▲25.2%)となりました。

DCF法による目標株価は15ドルのため、2023年7月末時点の株価15ドルとほぼ同水準です。

なお、メインシナリオは、10年後の売上高が1.00倍(年率+0.0%)、フリーキャッシュフローマージンが横ばいで推移することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。

競争が激しいメディア事業はスピンオフしましたが、主力の通信事業も、競争が激しいことに加え、巨大な設備投資が必要にも関わらず、売上高の成長が乏しいことから、長期的にみて市場平均を上回る株価上昇は期待できません。

配当利回りは高水準ですが、通信会社に投資したいのであれば日本の大手通信会社で十分です。

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