過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とAT&Tへの投資についてコメントします。
会社概要
AT&T(AT&T、T)
ホームページ(SECファイル):リンク先
国:アメリカ
セクター:コミュニケーション・サービス
産業グループ:電気通信サービス
サブ産業グループ:総合電気通信サービス
株式時価総額:1,757億ドル(世界ランキング第72位、2021年12月末)
AT&Tは、アメリカに本拠を置く、主力の通信事業に加え、CNNやHBO、ワーナー・ブラザーズ等を傘下に持つワーナーメディア事業等を展開する大手通信会社です。
2018年に約850億ドルで買収したワーナーメディア事業を430億ドルで分社化し、リアリティ番組に強みを持つメディア大手ディスカバリーと統合して、2022年に新会社であるワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(AT&Tが約7割、ディスカバリーが約3割の株式を保有)を設立することを発表しました。
(参考)競合他社(電気通信サービス)の株式時価総額(2021年12月末)
株式時価総額 | |
ベライゾン(VZ) | 2,181億ドル |
AT&T(T) | 1,757億ドル |
TモバイルUS(TMUS) | 1,449億ドル |
チャイナ・モバイル(0941.HK) | 1,229億ドル |
NTT(9432.T) | 947億ドル |
ドイツ・テレコム(DTE.GE) | 923億ドル |
ソフトバンクグループ(9984.T) | 822億ドル |
アメリカ・モービル(AMX) | 683億ドル |
KDDI(9433.T) | 656億ドル |
ソフトバンク(9434.T) | 596億ドル |
BCE(BCE) | 473億ドル |
ボーダフォン・グループ(VOD) | 406億ドル |
売上高(セグメント別)の推移
FY2021(2021年1-12月期)の売上高は1,689億ドルと、前年度比▲1.7%、過去5年間で年率+0.6%となりました。
2021Q4(2021年10−12月期)の売上高は410億ドル(前年同期比▲10.4%)と、コンセンサス(405億ドル)を下回りました。
セグメント別の売上高は、以下の通りです。
・通信:302億ドル、前年同期比+2%
・ワーナーメディア:99億ドル、前年同期比+15%
・ラテンアメリカ:11億ドル、前年同期比▲29%
2021Q4の無線通信(月額払い)契約件数の純増数は+129万件、携帯電話(月額払い)の契約件数は+88万件となりました。
2021Q4の動画配信サービスであるHBOマックスとHBOの契約件数は、以下の通りです。
・全体:7,375万件、前四半期比+6%
・うちアメリカ:4,679万件、前四半期比+4%
・うち海外:2,696万件、前四半期比+11%
利益(セグメント別)の推移
FY2021の非GAAP EBITDAは515億ドルと、前年度比▲5.6%、過去3年間で年率▲1.8%となりました。
非GAAP EBITDAマージンは30.5%と、前年度の31.8%から悪化しました。
2021Q4の非GAAP EBITDAは113億ドル(前年同期比▲12.3%)となりました。
セグメント別の非GAAP EBITDAマージンは、以下の通りです。
FY2021の非GAAP EPSは3.40ドルと、前年度比+6.9%、過去3年間で年率▲1.1%となりました。
2021Q4の非GAAP EPSは0.78ドル(前年同期比+4.0%)と、コンセンサス(0.75ドル)を上回りました。
キャッシュフローの推移
FY2021の営業キャッシュフローは420億ドルと、前年度比▲2.7%、過去5年間で年率+1.3%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は24.8%と、前年度の25.1%から悪化しました。
2021Q4の営業キャッシュフローは113億ドル(前年同期比+11.6%)となりました。
FY2021のフリーキャッシュフローは254億ドルと、前年度比▲7.4%、過去5年間で年率+8.5%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は15.1%と、前年度の16.0%から悪化しました。
2021Q4のフリーキャッシュフローは74億ドル(前年同期比▲3.5%)となりました。
株主還元(配当、自社株買い)の推移
配当が中心で自社株買いに消極的です。

(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2021の益利回り(PERの逆数)は11.2%、フリーキャッシュフロー利回りは14.4%と、バリュエーション面では割安感があります。
FY2021の配当利回りは8.5%と、株価下落により上昇傾向にあります。

(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
キャッシュフローベースでは余裕があるものの、利益ベースの配当性向は高い水準のため、業績急拡大がない限り、高い増配率は期待できません。

(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)
FY2021のDPSは2.08ドルと、前年度比+0.0%、過去5年間で+1.5%となりました。
FY2022のDPSは1.11ドルと、大幅減配予定です。

(参考)過去5年間の発行済株式数
発行済株式数は、過去5年間で年率+3.1%となりました。

ROICの推移
ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したか(投資効率)を測る指標となります。
正確な計算方法はないため、ここでは、税引後営業利益/投下資本(=運転資本+有形固定資産(リース含む)+無形固定資産+在庫+のれん)として計算しています。
少なくともWACC(加重平均資本コスト)を超えることが絶対条件と言われています。
過去5年間のROICは概ね5%程度と、投資効率は低いです。

有利子負債の推移
FY2021の有利子負債(リース含む))は約2,000億ドルと、高水準です。

売上高およびEPSの実績値とコンセンサスの推移
売上高の実績値(コンセンサス比)は、過去10四半期中、5勝、4敗、1引き分けです。
非GAAP EPSの実績値(コンセンサス比)は、過去10四半期中、8勝、1敗、1引き分けです。
売上高(億ドル) | GAAP EPS(ドル) | |||||
実績値 | コンセンサス | 勝敗 | 実績値 | コンセンサス | 勝敗 | |
2019Q3 | 446 | 451 | × | 0.94 | 0.92 | ○ |
2019Q4 | 468 | 470 | × | 0.89 | 0.88 | ○ |
2020Q1 | 428 | 442 | × | 0.84 | 0.85 | × |
2020Q2 | 410 | 410 | ▲ | 0.83 | 0.79 | ○ |
2020Q3 | 423 | 416 | ○ | 0.76 | 0.76 | ▲ |
2020Q4 | 457 | 445 | ○ | 0.75 | 0.73 | ○ |
2021Q1 | 439 | 427 | ○ | 0.86 | 0.78 | ○ |
2021Q2 | 440 | 427 | ○ | 0.89 | 0.80 | ○ |
2021Q3 | 399 | 402 | × | 0.87 | 0.79 | ○ |
2021Q4 | 410 | 405 | ○ | 0.78 | 0.75 | ○ |
株価上昇率
FY2021の株価上昇率は▲14.5%と、S&P500(+26.9%)を下回りました。
過去5年間(2017年1月から2021年12月末)の株価上昇率は年率▲10.4%と、S&P500(年率+16.3%)を大きく下回りました。
2021Q4の株価上昇率は▲8.9%と、S&P500(+10.6%)を下回りました。
競合他社(電気通信サービス)の株価上昇率(9432.T、9984.T、9433.T、9434.Tは日本円建て、0941.HKは香港ドル建て、DTE.GEはユーロ建て)は、以下の通りです。
AT&T(T)の株価上昇率は、2021年の1年間で▲14%と、12社平均(+3%)を下回り、12社中第11位となりました。
2019年1月から2021年12月の3年間では▲14%と、11社平均(+19%)を下回り、11社中第9位となりました。

株式市場全体の下落局面における株価上昇率(現地通貨建て)は、以下の通りです。
AT&Tは、下落相場に強いとは言い難く、ベライゾンの方が相対的に強いと言えます。

過去10年間(2012年2月から2022年1月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
S&P500と比較して、ドローダウンはやや大きいです。
2016年7月の最高値から最大40%程度下落し、ドローダウン更新中です。
(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。
この10年間厳しい結果となっており、上昇トレンドまでしばらく時間がかかりそうです。
DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを5.6%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億ドル)の推移となります。

① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目▲10%、2年目▲3%、3年目〜10年目+0%。11年目以降の永続成長率は0%
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目▲10%、2年目〜10年目+1%。11年目以降の永続成長率は0%
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目▲10%、2年目〜5年目▲3%、6年目〜10年目▲1%。11年目以降の永続成長率は0%
メインシナリオの目標株価は28ドルとなります。
・メインシナリオ:28ドル
・アップサイドシナリオ:33ドル
・ダウンサイドシナリオ:22ドル
AT&T(AT&T、T)への投資について
2021Q4(2021年10−12月期)の売上高は410億ドル(コンセンサス405億ドル)、非GAAP EPSは0.78ドル(コンセンサス0.75ドル)と、コンセンサスを上回る実績となりました。
FY2022のガイダンスは、以下の通りです。
・売上高:1桁前半
・非GAAP EPS:3.10〜3.15ドル(コンセンサス3.21ドル)
・フリーキャッシュフロー:230億ドル程度
DCF法による目標株価は28ドルのため、2022年1月末時点の株価26ドルとほぼ同水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が1.02倍(年率+0.2%)、10年後に向けてフリーキャッシュフローマージンが13%まで低下することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
主力の通信事業は、競争が激しいことに加え、巨大な設備投資が必要にも関わらず、売上高の成長が乏しいことから、長期的にみて市場平均を上回る株価上昇は期待できません。
ベライゾンと異なり、株式市場が急落した局面では市場全体に劣後する可能性があります。
ベライゾンの方が魅力的ですが、そもそも日本の大手通信会社で十分です。








