過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とテンセント・ホールディングスへの投資についてコメントします。
会社概要
テンセント・ホールディングス(Tencent、0700.HK)
ホームページ(IR):リンク先
国:中国
セクター:コミュニケーション・サービス
産業グループ:メディア・娯楽
サブ産業グループ:インタラクティブ・メディアおよびサービス
株式時価総額:5,599億ドル(世界ランキング第11位、2021年12月末)
テンセント・ホールディングスは、中国に本拠を置く、オンラインゲームの運営やオンライン広告サービスの提供等を行う企業です。
①付加価値サービス(VAS、ゲームが中心)、②フィンテック事業サービス、③オンライン広告、④その他の4つのセグメントに分けられます。
なお、テンセントは、浮動株比率が非常に低い(大株主は、プロサス🇳🇱(実質的にはナスパーズ🇮🇳)やポニー・マー氏)ため、浮動株ベースで算出される株式指数(インデックス)の時価総額は、通常の株式時価総額と比較して小さくなります。
(参考)競合他社(インタラクティブ・メディアおよびサービス)の株式時価総額(2021年12月末)
株式時価総額 | |
アルファベット(GOOG) | 1.92兆ドル |
メタ・プラットフォームズ(FB) | 9,356億ドル |
テンセントHD/騰訊控股(0700.HK) | 5,599億ドル |
スナップ(SNAP) | 757億ドル |
バイドゥ/百度(BIDU) | 518億ドル |
ネイバー(035420.KS) | 475億ドル |
ZHD(4689.T) | 443億ドル |
カカオ(035720.KS) | 410億ドル |
クワイショウ・テクノロジー/快手科技(1024.HK) | 384億ドル |
マッチ・グループ(MTCH) | 374億ドル |
ツイッター(TWTR) | 346億ドル |
ズームインフォ・テクノロジーズ(ZI) | 259億ドル |
ピンタレスト(PINS) | 237億ドル |
ヤンデックス(YNDX) | 217億ドル |
ジロー・グループ(ZG) | 162億ドル |
売上高(セグメント別)の推移
FY2021の売上高は5,601億人民元と、前年度比+16.2%、過去5年間で年率+29.8%となりました。

セグメント別の売上高は、以下の通りです。
・付加価値サービス(VAS):2,916億人民元、前年度比+10%
・フィンテック事業サービス:887億人民元、前年度比▲31%
・オンライン広告:1,722億人民元、前年度比+109%
・その他:77億人民元、前年度比+3%
セグメント別の売上高構成比は、付加価値サービス(VAS)が52%、フィンテック事業サービスが16%、オンライン広告が31%を占めます。

微信/We chatのMAU、VAS有料会員の推移
FY2021の微信/We chatのMAUは12.68億ユーザーと、前年度比+3.5%となりました。

FY2021のVAS有料会員は2.36億件と、前年度比+7.7%となりました。

現金等、上場株・非上場株式投資の推移
2021年12月末時点の現金等は2,624億人民元、上場株投資は2,008億人民元、非上場株式は1,158億人民元となりました。

利益(セグメント別)の推移
FY2021の営業利益は2,716億人民元と、前年度比+47.4%、過去5年間で年率+37.1%となりました。
営業利益率は48.5%と、前年度の38.2%から改善しました。

セグメント別の粗利益率は、以下の通りです。

FY2021の非IFRS EPSは12.70人民元と、前年度比+0.1%、過去5年間で年率+21.6%となりました。

キャッシュフローの推移
FY2021の営業キャッシュフローは1,752億人民元と、前年度比▲9.8%、過去5年間で年率+21.7%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は31.3%と、前年度の40.3%から悪化しました。

FY2021のフリーキャッシュフローは1,147億人民元と、前年度比▲13.7%、過去5年間で年率+18.9%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は20.5%と、前年度の27.6%から悪化しました。

株主還元(配当、自社株買い)の推移
株主還元に消極的です。

(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2021の益利回り(PERの逆数)は5.1%、フリーキャッシュフロー利回りは2.6%です。

(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
過去5年間の配当性向、総還元性向は、利益・キャッシュフローベースともに10%台です。

(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)
FY2021のDPSは1.60人民元と、前年度比+0.0%、過去5年間で年率+21.3%となりました。
FY2021は別途JDドットコム株を分配(テンセント保有21株につきJDドットコム1株)しました。

(参考)過去5年間の発行済株式数
発行済株式数は、過去5年間で年率+0.4%となりました。

ROICの推移
ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したか(投資効率)を測る指標となります。
正確な計算方法はないため、ここでは、税引後営業利益/投下資本(=運転資本+有形固定資産(リース含む)+無形固定資産+在庫+のれん)として計算しています。
少なくともWACC(加重平均資本コスト)を超えることが絶対条件と言われれています。
過去3年間のROICは2桁後半と、投資効率は非常に高いです。

株価上昇率
FY2021の株価上昇率は▲19.3%と、世界株式を投資対象とするVT ETF(+16.0%)を下回りました。
過去5年間(2017年1月から2021年12月末)の株価上昇率は年率+19.2%と、VT(年率+12.0%)を上回りました。

競合他社(インタラクティブ・メディアおよびサービス)の株価上昇率(0700.HKは香港ドル建て、035420.KS、035720.KSは韓国ウォン建て、4689.Tは日本円建て、その他はUSドル建て)は、以下の通りです。
テンセント(0700.HK)の株価上昇率は、2021年の1年間で▲19%と、14社平均(+0%)を下回り、14社中第10位となりました。
2019年1月から2021年12月の3年間では+46%と、11社平均(+200%)を下回り、11社中第10位となりました。

過去10年間(2012年7月から2022年6月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。

(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。

DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを8.0%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億人民元)の推移となります。

① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+0%、2年目+15%、3年目〜10年目+10%。11年目以降の永続成長率は0%。
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+0%、2年目〜10年目+20%。11年目以降の永続成長率は0%。
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜10年目+0%。11年目以降の永続成長率は0%。
メインシナリオの目標株価は353香港ドルとなります。
・メインシナリオ:353香港ドル
・アップサイドシナリオ:656香港ドル
・ダウンサイドシナリオ:174香港ドル
テンセント(Tencent、0700.HK)への投資について
FY2021の売上高は5,601億人民元(前年度比+16.2%)、非IFRS EPSは12.70人民元(前年度比+0.1%)、フリーキャッシュフローは1,147億人民元(前年度比▲13.7%)となりました。
過去3年間のROICは2桁後半と、アップルと同様、投資効率が非常に高いです。
DCF法による目標株価は353香港ドルのため、2022年6月末時点の株価354香港ドルと同水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が2.5倍(年率+9%)、フリーキャッシュフローマージンが10年間継続することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
中国政府による規制強化が厳しく、当面業績は大苦戦の見通しです。
テンセントの大株主であるプロサス🇳🇱(実質的にはナスパーズ🇮🇳)は、テンセント株を段階的に売却する方針を2022年6月に発表しました。
悪材料が多く目先株価が急上昇する材料は乏しいですが、超長期でみれば業績拡大による株価上昇を期待します。
投資継続です。


