過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とメルク&カンパニーへの投資についてコメントします。
会社概要
メルク&カンパニー(Merck & Co., Inc.、MRK)
ホームページ(SECファイル):リンク先
国:アメリカ
セクター:ヘルスケア
産業グループ:医薬品・バイオテクノロジー・ライフサイエンス
サブ産業グループ:医薬品
株式時価総額:1,969億ドル(世界ランキング第56位、2021年6月末)
メルク&カンパニーは、アメリカに本拠を置く、大手医薬品メーカーです。
メルク&カンパニーとドイツのメルク(Merck KGaA)は元々同じ会社でしたが、第一次世界大戦中の1917年に、ドイツのメルクのアメリカ拠点を、アメリカ政府によって分社化されたことから、メルク&カンパニーが設立されました。
(参考)競合他社(医薬品)の株式時価総額(2021年6月末)
株式時価総額 (億ドル) | |
ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ) | 4,338 |
ロシュHD(ROG.SW) | 3,257 |
イーライ・リリー(LLY) | 2,201 |
ファイザー(PFE) | 2,192 |
ノバルティス(NVS) | 2,048 |
メルク&カンパニー(MRK) | 1,969 |
ノボ・ノルディスク(NVO) | 1,923 |
アストラゼネカ(AZN) | 1,573 |
ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMY) | 1,492 |
サノフィ(SNY) | 1,317 |
グラクソ・スミスクライン(GSK) | 1,002 |
ゾエティス(ZTS) | 885 |
メルクKGaA(MRK.DE) | 811 |
中外製薬(4519.T) | 655 |
バイエル(BAYN.DE) | 599 |
武田薬品工業(4502.T) | 531 |
第一三共(4568.T) | 377 |
アステラス製薬(4503.T) | 322 |
エーザイ(4523.T) | 283 |
売上高の推移
FY2020(2020年1-12月期)の売上高は480億ドルと、前年度比+2.5%、過去5年間で年率+4.0%となりました。
2021Q2(2021年4−6月期)の売上高は114億ドル(前年同期比+21.9%)と、コンセンサス(112億ドル)を上回りました。
プロダクト別の売上高は、以下の通りです。
・キイトルーダ(がん治療薬):42億ドル、前年同期比+23%
・ジャヌビア(2型糖尿病治療薬):13億ドル、前年同期比+11%
・ガーダシル(HPVワクチン):12億ドル、前年同期比+88%
・その他製薬:33億ドル、前年同期比+19%
・動物向け/家畜:8億ドル、前年同期比+27%
・動物向け/ペット:7億ドル、前年同期比+44%
セグメント別の売上高構成比は、キイトルーダ(がん治療薬)が36%を占めます。
地域別の売上高構成比は、アメリカが44%、欧州/中東/アフリカが28%、中国が8%、日本が7%を占めます。
利益の推移
FY2020の営業利益は85億ドルと、前年度比▲30.7%、過去5年間で年率+3.5%となりました。
営業利益率は17.7%と、前年度の26.1%から悪化しました。
2021Q2の営業利益は17億ドル(前年同期比▲30.4%)となりました。
FY2020の非GAAP EPSは5.94ドルと、前年度比+14.5%、過去5年間で年率+10.6%となりました。
2021Q2のEPSは0.48ドルと、コンセンサス(0.82ドル)を下回りました。
非GAAP EPSは1.31ドル(前年同期比+72.6%)と、コンセンサス(1.35ドル)を下回りました。
キャッシュフローの推移
FY2020の営業キャッシュフローは103億ドルと、前年度比▲23.7%、過去5年間で年率▲3.9%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は21.4%と、前年度の28.7%から悪化しました。
2021Q2の営業キャッシュフローは14億ドル(前年同期比▲25.0%)となりました。
FY2020のフリーキャッシュフローは56億ドルと、前年度比▲44.1%、過去5年間で年率▲13.1%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は11.6%と、前年度の21.3%から悪化しました。
2021Q2のフリーキャッシュフローは5億ドル(前年同期比▲62.6%)となりました。
株主還元(配当、自社株買い)の推移
株主還元に積極的です。
(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2020の益利回り(PERの逆数)は3.6%、フリーキャッシュフロー利回りは2.8%です。
過去5年間の配当利回りは3%程度です。
(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
FY2020の配当性向は、利益ベースで89%です。
(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)
FY2020のDPSは2.48ドルと、前年度比+9.7%、過去5年間で年率+6.5%となりました。
(参考)過去5年間の発行済株式数
発行済株式数は、過去5年間で年率▲2.2%となりました。
売上高およびEPSの実績値とコンセンサスの推移
売上高の実績値(コンセンサス比)は、過去8四半期中、5勝、3敗です。
EPSの実績値(コンセンサス比)は、過去8四半期中、3勝、5敗です。
非GAAP EPSの実績値(コンセンサス比)は、過去8四半期中、5勝、3敗です。
※公表時点の数値
売上高(ドル) | GAAP EPS(ドル) | 非GAAP EPS(ドル) | |||||||
実績値 | コンセンサス | 勝敗 | 実績値 | コンセンサス | 勝敗 | 実績値 | コンセンサス | 勝敗 | |
2019Q3 | 124 | 116 | ○ | 0.74 | 0.96 | × | 1.51 | 1.24 | ○ |
2019Q4 | 119 | 119 | × | 0.92 | 0.94 | × | 1.16 | 1.15 | ○ |
2020Q1 | 121 | 115 | ○ | 1.26 | 1.12 | ○ | 1.50 | 1.34 | ○ |
2020Q2 | 109 | 105 | ○ | 1.18 | 0.91 | ○ | 1.37 | 1.05 | ○ |
2020Q3 | 126 | 122 | ○ | 1.16 | 1.02 | ○ | 1.74 | 1.43 | ○ |
2020Q4 | 125 | 127 | × | -0.83 | 1.05 | × | 1.32 | 1.39 | × |
2021Q1 | 121 | 127 | × | 1.25 | 1.43 | × | 1.40 | 1.62 | × |
2021Q2 | 114 | 112 | ○ | 0.48 | 0.82 | × | 1.31 | 1.35 | × |
株価上昇率
FY2020の株価上昇率は▲10.1%と、S&P500(+16.3%)を下回りました。
過去5年間(2016年1月から2020年12月末)の株価上昇率は年率+9.1%と、S&P500(年率+12.9%)を下回りました。
2021Q2の株価上昇率は+5.8%と、S&P500(+8.2%)を下回りました。
競合他社(医薬品)の株価上昇率(ROG.SWはスイスフラン、MRK.DE、BAYN.DEはユーロ建て、4519.T、4502.T、4568.T、4503.T、4523.Tは日本円建て、その他はUSドル建て)は、以下の通りです。
メルク&カンパニー(MRK)の株価上昇率は、2020年の1年間で▲10%と、19社平均(+6%)を下回り、19社中第14位となりました。
2018年1月から2020年12月の3年間では+45%と、19社平均(+46%)を下回り、19社中第6位となりました。
過去10年間(2011年9月から2021年8月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。
DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを4.3%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億ドル)の推移となります。
① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目▲40%、2年目+100%、3年目〜5年目+10%、6年目〜10年目+5%。11年目以降の永続成長率は0%。
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目▲40%、2年目+100%、3年目〜10年目+10%。11年目以降の永続成長率は0%。
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目▲40%、2年目+50%、3年目〜10年目+5%。11年目以降の永続成長率は0%。
メインシナリオの目標株価は85ドルとなります。
・メインシナリオ:85ドル
・アップサイドシナリオ:105ドル
・ダウンサイドシナリオ:53ドル
メルク&カンパニー(Merck & Co., Inc.、MRK)への投資について
2021Q2(2021年4−6月期)の売上高は114億ドル(前年同期比+21.9%)、非GAAP EPSは1.31ドル(前年同期比+28.4%)となりました。
FY2021のガイダンスは、以下の通りです。
・売上高:464〜474億ドル(コンセンサス466億ドル)
・非GAAP EPS:5.47〜5.57ドル(コンセンサス5.61ドル)
DCF法による目標株価は85ドルのため、2021年8月末時点の株価76ドルより高い水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が1.6倍(年率+5%)、フリーキャッシュフローマージンが7%へ低下後10年後に向けて15%まで上昇することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
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