過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とアボット・ラボラトリーズへの投資についてコメントします。
会社概要
アボット・ラボラトリーズ(Abbott Laboratories、ABT)
ホームページ(SECファイル):リンク先
国:アメリカ
セクター:ヘルスケア
産業グループ:ヘルスケア機器・サービス
サブ産業グループ:ヘルスケア機器
株式時価総額:2,060億ドル(世界ランキング第49位、2021年6月末)
アボット・ラボラトリーズは、アメリカに本拠を置く、特に心臓血管領域に強みを持ち、医療機器、診断薬/機器、栄養剤製品、後発医薬品を製造・販売するヘルスケア企業です。
(参考)競合他社(ヘルスケア機器)の株式時価総額(2021年6月末)
株式時価総額 (億ドル) | |
アボットラボラトリーズ(ABT) | 2,060 |
ダナハー(DHR) | 1,914 |
メドトロニック(MDT) | 1,670 |
インテュイティブ・サージカル(ISRG) | 1,089 |
ストライカー(SYK) | 979 |
ベクトン・ディッキンソン(BDX) | 707 |
シーメンス・ヘルスケア(SHL.DE) | 701 |
エドワーズライフサイエンス(EW) | 644 |
ボストン・サイエンティフィック(BST) | 608 |
アイデックスラボラトリーズ(IDXX) | 539 |
コーニンクレッカ フィリップス(PHG) | 453 |
バクスターインターナショナル(BAX) | 405 |
デクスコム(DXCM) | 413 |
ザルトリウス(SRT.DE) | 339 |
レスメド(RMD) | 359 |
ジンマー・バイオメットHD(ZBH) | 335 |
テルモ(4543.T) | 308 |
ストラウマンHD(STMN.SW) | 262 |
シスメックス(6869.T) | 248 |
ソノバHD(SOON.SW) | 243 |
オリンパス(7733.T) | 242 |
ノボキュア(NVCR) | 229 |
売上高(セグメント別、地域別)の推移
FY2020(2020年1-12月期)の売上高は346億ドルと、前年度比+8.5%、過去5年間で年率+11.1%となりました。
2021Q2(2021年4−6月期)の売上高は102億ドル(前年同期比+39.5%)と、コンセンサス(97億ドル)を上回りました。
新型コロナウイルス検査関連の売上高は13億ドルとなりました。
セグメント別の売上高は、以下の通りです。
・後発医薬品:12億ドル、前年同期比+16%
・栄養剤製品:21億ドル、前年同期比+12%
・診断薬/機器:32億ドル、前年同期比+63%
・医療機器:37億ドル、前年同期比+51%
セグメント別の売上高構成比は、後発医薬品が12%、栄養剤製品が21%、診断薬/機器が32%、医療機器が36%を占めます。
診断薬/機器のサブセグメント別の売上高構成比は、コアラボ診断が41%、迅速診断が40%、遺伝子検査が13%を占めます。
医療機器のサブセグメント別の売上高構成比は、糖尿病治療関連製品が28%、血管用製品が20%、不整脈管理製品が16%を占めます。
地域別の売上高構成比は、アメリカが38%、海外が62%を占めます。
利益(セグメント別)の推移
FY2020の営業利益は54億ドルと、前年度比+18.2%、過去5年間で年率+13.4%となりました。
営業利益率は15.5%と、前年度の14.2%から改善しました。
2021Q2の営業利益は14億ドル(前年同期比+107.1%)となりました。
セグメント別の営業利益率は、以下の通りです。
FY2020の非GAAP EPSは3.65ドルと、前年度比+12.7%、過去3年間で年率+13.4%となりました。
2021Q2のEPSは0.66ドルと、コンセンサス(0.66ドル)と一致しました。
非GAAP EPSは1.17ドル(前年同期比+105.3%)と、コンセンサス(1.02ドル)を上回りました。
キャッシュフローの推移
FY2020の営業キャッシュフローは79億ドルと、前年度比+28.8%、過去5年間で年率+21.6%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は22.8%と、前年度の19.2%から改善しました。
2021Q2の営業キャッシュフローは21億ドル(前年同期比+61.0%)となりました。
FY2020のフリーキャッシュフローは57億ドルと、前年度比+27.3%、過去5年間で年率+25.3%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は16.5%と、前年度の14.1%から改善しました。
2021Q2のフリーキャッシュフローは17億ドル(前年同期比+152.2%)となりました。
株主還元(配当、自社株買い)の推移
自社株買いには消極的です。
(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2020の益利回り(PERの逆数)は2.3%、フリーキャッシュフロー利回りは2.9%です。
(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
過去3年間の配当性向は、利益・キャッシュフローベースともに100%を下回りました。
(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)
FY2020のDPSは1.44ドルと、前年度比+12.5%、過去5年間では年率+8.4%となりました。
なお、FY2021のDPSは1.80ドル(前年度比+25%)の予定です。
49年連続増配です。
(参考)過去5年間の発行済株式数
発行済株式数は、過去5年間で年率+3.5%となりました。
売上高およびEPSの実績値とコンセンサスの推移
売上高の実績値(コンセンサス比)は、過去9四半期中、6勝、2敗、1引き分けです。
EPSの実績値(コンセンサス比)は、過去9四半期中、6勝、2敗、1引き分けです。
非GAAP EPSの実績値(コンセンサス比)は、過去9四半期中、7勝、2引き分けです。
売上高(ドル) | GAAP EPS(ドル) | 非GAAP EPS(ドル) | |||||||
実績値 | コンセンサス | 勝敗 | 実績値 | コンセンサス | 勝敗 | 実績値 | コンセンサス | 勝敗 | |
2019Q2 | 80 | 80 | × | 0.56 | 0.48 | ○ | 0.82 | 0.80 | ○ |
2019Q3 | 81 | 81 | ▲ | 0.53 | 0.56 | × | 0.84 | 0.84 | ▲ |
2019Q4 | 83 | 83 | ○ | 0.59 | 0.64 | × | 0.95 | 0.95 | ▲ |
2020Q1 | 77 | 75 | ○ | 0.30 | 0.25 | ○ | 0.65 | 0.61 | ○ |
2020Q2 | 73 | 69 | ○ | 0.30 | 0.12 | ○ | 0.57 | 0.42 | ○ |
2020Q3 | 89 | 85 | ○ | 0.69 | 0.62 | ○ | 0.98 | 0.91 | ○ |
2020Q4 | 107 | 99 | ○ | 1.20 | 1.07 | ○ | 1.45 | 1.35 | ○ |
2021Q1 | 105 | 107 | × | 1.00 | 0.91 | ○ | 1.32 | 1.27 | ○ |
2021Q2 | 102 | 97 | ○ | 0.66 | 0.66 | ▲ | 1.17 | 1.02 | ○ |
株価上昇率
FY2020の株価上昇率は+26.1%と、S&P500(+16.3%)を上回りました。
過去5年間(2016年1月から2020年12月末)の株価上昇率は年率+19.5%と、S&P500(年率+12.9%)を上回りました。
2021Q2の株価上昇率は▲3.3%と、S&P500(+8.2%)を下回りました。
競合他社(ヘルスケア機器)の株価上昇率(SHL.DE、SRT.DEはユーロ建て、STMN.SW、SOON.SWはスイスフラン建て、4543.T、6869.T、7733.Tは日本円建て、その他はUSドル建て)は、以下の通りです。
アボット・ラボラトリーズ(ABT)の株価上昇率は、2020年の1年間で+26%と、22社平均(+33%)を下回り、22社中第11位となりました。
2018年1月から2020年12月の3年間では+92%と、21社平均(+150%)を下回り、22社中第11位となりました。
株式市場全体の下落局面における株価上昇率(ドル建て)は、以下の通りです。
アボット・ラボラトリーズは、下落相場に強いと言えます。
過去10年間(2011年9月から2021年8月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
2016年を除くとドローダウンは小さく、最高値から5〜10%程度下落すると反発する傾向にあるため、その時が狙い目です。
(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。
DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを4.8%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億ドル)の推移となります。
① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+40%、2年目〜4年目+0%、5年目〜10年目+8%。11年目以降の永続成長率は0%
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+40%、2年目〜10年目+8%。11年目以降の永続成長率は0%
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+40%、2年目〜10年目+0%。11年目以降の永続成長率は0%
メインシナリオの目標株価は128ドルとなります。
・メインシナリオ:128ドル
・アップサイドシナリオ:161ドル
・ダウンサイドシナリオ:111ドル
アボット・ラボラトリーズ(Abbott Laboratories、ABT)への投資について
2021Q2(2021年4−6月期)の売上高は102億ドル(コンセンサス97億ドル)、非GAAP EPSは1.17ドル(コンセンサス1.02ドル)と、コンセンサスを下回る実績となりました。
FY2021のガイダンスは、以下の通りです。
・非GAAP EPS:4.30〜4.50ドル
DCF法による目標株価は128ドルのため、2021年8月末時点の株価126ドルとほぼ同水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が2.4倍(年率+9%)、フリーキャッシュフローマージンが19%まで上昇後、10年後に向けて15%まで低下することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
業績、株価とも安定しており、安心感があります。
それゆえに割安感がなく、株価が急落した場合には投資のチャンスです。