過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とASMLへの投資についてコメントします。
会社概要
ASML(ASML、ASML.EN、ASML)
ホームページ(IR):リンク先
国:オランダ
セクター:情報技術
産業グループ:半導体・半導体製造装置
サブ産業グループ:半導体製造装置
株式時価総額:3,319億ドル(世界ランキング第26位、2021年12月末)
ASMLは、オランダに拠点を置く、露光装置の売上高が世界シェア8割(EUVとArF液浸はほぼ独占)を超える半導体製造装置メーカーです。
半導体は回路線幅が狭いほど演算速度や省電力性能が高まるため、年々回路線幅が細くなっており、台湾セミコンダクターの売上の主力は7ナノメートルのチップです。
露光装置は、ウエハー上に半導体の回路パターンを転写する工程で使いますが、7ナノメートルの転写は光源波長が非常に短いEUVが必要不可欠です。
売上高(用途別、露光装置別、地域別)の推移
FY2021(2021年1-12月期)の売上高は186億ユーロと、前年度比+33.1%、過去5年間で年率+22.3%となりました。
2021Q4(2021年10−12月期)の売上高は49.8億ユーロ(前年同期比+17.2%)と、コンセンサス(51.1億ユーロ)を下回りました。
各露光装置の売上台数は、以下の通りです。
・EUV露光装置:11台
・ArF液浸露光装置:20台
・ArF:5台
・KrF:35台
・i線:11台
セグメント別(システムのみ)の売上高構成比は、EUV露光装置が46%、ArF浸透露光装置が35%を占めます。
エンドユーザー向け売上高構成比は、ロジック(CPU等データ処理IC)向けが73%、メモリ(DRAM、NAND等データ記憶IC)向けが27%を占めます。
地域別の売上高構成比は、台湾が51%、韓国が27%を占めます。
2021Q1の欧州の▲6%は、未使用品2台返却のためです。
EUV露光装置とArF液浸露光装置の販売台数と販売価格の推移
露光装置は、ウエハー上に半導体の回路パターンを転写する工程で使い、光源波長が短いほど、微細なパターンが形成できます。
まず最初に水銀ランプのg線(431nm)が開発され、その後、水銀ランプのi線(365nm)、KrF(248nm)、ArF(193nm)、ArF浸透(193nm)、EUV(13.5nm)と、光の波長が短くなってきています。
FY2020のEUV露光装置の販売台数は31台(前年比+5台)でした。
EUV露光装置1台あたり販売価格は1.4億ユーロと、前年比+19.2%の価格上昇となりました。
FY2020のArF液浸露光装置の販売台数は68台(前年比▲14台)でした。
ArF液浸露光装置1台あたり販売価格は0.6億ユーロと、前年比+0.3%の価格上昇となりました。
以下のグラフにある通り、光源波長が短いほど販売価格が高いことがわかります。
半導体の市場規模の見込み
2020年の半導体の市場規模は4,404億ドル(前年度比+7%)となりました。
WSTSによると、2021年予想は5,530億ドル(前年比+26%)、2022年予想は6,010億ドル(前年比+9%)です。
2020年の半導体製造装置の市場規模は712億ドル(前年度比+19%)となりました。
利益の推移
FY2021の営業利益は68億ユーロと、前年度比+66.6%、過去5年間で年率+30.9%となりました。
営業利益率は36.3%と、前年度の29.0%から改善しました。
2021Q4の営業利益は20億ユーロ(前年同期比+35.1%)となりました。
FY2021のEPSは14.34ユーロと、前年度比+69.1%、過去5年間で年率+31.5%となりました。
2021Q4のEPSは4.38ユーロ(前年同期比+35.6%)と、コンセンサス(3.89ユーロ)を上回りました。
キャッシュフローの推移
FY2021の営業キャッシュフローは108億ユーロと、前年度比+134.4%、過去5年間で年率+45.5%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は58.3%と、前年度の33.1%から改善しました。
2021Q4の営業キャッシュフローは64億ユーロ(前年同期比+37.4%)となりました。
FY2021のフリーキャッシュフローは99億ユーロと、前年度比+173.1%、過去5年間で年率+49.2%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は53.2%と、前年度の25.9%から改善しました。
2021Q4のフリーキャッシュフローは61億ユーロ(前年同期比+40.3%)となりました。
株主還元(配当、自社株買い)の推移
自社株買いに積極的です。
(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2021の益利回り(PERの逆数)は2.0%、キャッシュフロー利回りは3.4%です。
FY2021の配当利回りは0.8%、総還元利回りは3.7%です。
(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
過去5年間の配当性向は、利益・キャッシュフローベースともに50%以下です。
(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)
FY2021のDPSは5.50ユーロと、前年度比+100.0%、過去5年間で年率+35.6%となりました。
(参考)過去5年間の発行済株式数
発行済株式数は、過去5年間で年率▲0.8%となりました。
ROICの推移
ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したか(投資効率)を測る指標となります。
正確な計算方法はないため、ここでは、税引後営業利益/投下資本(=運転資本+有形固定資産(リース含む)+無形固定資産+在庫+のれん)として計算しています。
少なくともWACC(加重平均資本コスト)を超えることが絶対条件と言われれています。
FY2021のROICは35%と、投資効率は比較的高いと言えます。
売上高およびEPSの実績値とコンセンサスの推移
売上高の実績値(コンセンサス比)は、過去10四半期中、4勝、5敗、1引き分けです。
EPSの実績値(コンセンサス比)は、過去10四半期中、7勝、2敗、1引き分けです。
売上高(億ユーロ) | EPS(ユーロ) | |||||
実績値 | コンセンサス | 勝敗 | 実績値 | コンセンサス | 勝敗 | |
2019Q3 | 30.0 | 30.2 | × | 1.49 | 1.45 | ○ |
2019Q4 | 40.4 | 39.1 | ○ | 2.70 | 2.71 | × |
2020Q1 | 24.4 | 24.4 | ▲ | 0.93 | 0.93 | ▲ |
2020Q2 | 33.3 | 35.1 | × | 1.79 | 2.05 | × |
2020Q3 | 39.6 | 37.2 | ○ | 2.54 | 2.24 | ○ |
2020Q4 | 42.5 | 37.3 | ○ | 3.23 | 2.44 | ○ |
2021Q1 | 43.6 | 40.2 | ○ | 3.20 | 2.58 | ○ |
2021Q2 | 40.2 | 41.2 | × | 2.52 | 2.49 | ○ |
2021Q3 | 52.4 | 52.7 | × | 4.27 | 3.95 | ○ |
2021Q4 | 49.8 | 51.1 | × | 4.27 | 3.89 | ○ |
株価上昇率
FY2021の株価上昇率は+77.8%と、世界株式を投資対象とするVT(+16.0%)を上回りました。
過去5年間(2017年1月から2021年12月末)の株価上昇率は年率+46.0%と、VT(年率+12.0%)を大きく上回りました。
2021Q4の株価上昇率は+9.4%と、VT(+5.5%)を上回りました。
競合他社(半導体製造装置)の株価上昇率(8035.T、6920.T、6857.Tは日本円建て、ASM.ASはユーロ建て、その他はUSドル建て)は、以下の通りです。
ASML(ASML、ADR)の株価上昇率は、2021年の1年間で+63%と、12社平均(+63%)を上回り、12社中第6位となりました。
2019年1月から2021年12月の3年間では+412%と、12社平均(+924%)を下回り、12社中第8位となりました。
過去10年間(2012年1月から2021年12月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
並みの激しい半導体製造装置なので仕方がありませんが、S&P500と比較してドローダウンが大きい傾向があります。
最高値から10%以上下落する局面が度々発生するので、その時が狙い目です。
(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。
トレンドラインを大きく上回っており、しばらく横ばいに推移しそうです。
DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを5.2%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億ユーロ)の推移となります。
① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+0%、2年目〜7年目+5%、8年目〜10年目+10%。11年目以降の永続成長率は0%。
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+0%、2年目〜10年目+10%。11年目以降の永続成長率は0%。
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目▲20%、2年目〜10年目+5%。11年目以降の永続成長率は0%。
メインシナリオの目標株価は734ユーロとなります。
ASML(ASML、ASML.EN、ASML)への投資について
2021Q4(2021年10−12月期)の売上高は49.8億ユーロと、コンセンサス(51.1億ユーロ)を下回りましたが、EPSは4.27ユーロと、コンセンサス(3.89ユーロ)を上回りました。
FY2022のガイダンスは、以下の通りです。
・売上高:前年度比+20%
DCF法による目標株価は734ユーロのため、2021年12月末時点の株価707ユーロ(ADR:796USドル)より高い水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が4.7倍(年率+17%)、フリーキャッシュフローマージンが30%まで上昇することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
株価の変動を気にせず長期保有したいため、投資継続です。