過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とフォルクスワーゲンへの投資についてコメントします。
会社概要
フォルクスワーゲン(Volkswagen AG、VOW.DE)
ホームページ(IR):リンク先
国:ドイツ
セクター:一般消費財・サービス
産業グループ:自動車・自動車部品
サブ産業グループ:自動車製造
株式時価総額:1,648億ドル(2021年5月末)
浮動株調整後株式時価総額:520億ドル(2021年3月末、MSCI)
フォルクスワーゲンは、ドイツに本拠を置く、ベントレーやポルシェ等の高級車を傘下に持つ、世界最大級の自動車メーカーです。
2015年に排出ガス規制不正問題が発覚しました。
自動車販売台数は、2016年から2019年まで世界第1位だったものの、2020年はトヨタに抜かれ第2位です。
2030年に欧州における自動車販売の7割をEV(電気自動車)とする目標を掲げており、EVに注力しています。
自動車製造に占めるフォルクスワーゲンの浮動株調整後株式時価総額比率は6%です。
(参考)競合他社(自動車製造)の株式時価総額
売上高(セグメント別、地域別)の推移
FY2020(2020年1-12月期)の売上高は2,229億ユーロと、前年度比▲11.8%、過去5年間で年率+0.9%となりました。
セグメント別の売上高は、以下の通りです。
・自動車(乗用車):1,563億ユーロ、前年度比▲14%
・自動車(商用車):222億ユーロ、前年度比▲16%
・自動車(パワーエンジニアリング):36億ユーロ、前年度比▲9%
・金融:408億ユーロ、前年度比+2%
セグメント別の売上高構成比は、自動車(乗用車)が70%を占めます。
グループ自動車販売台数は916万(前年度比▲16%)となりました。
ブランド別の売上高は、以下の通りです。
・フォルクスワーゲン乗用車:711億ユーロ、前年度比▲20%
・アウディ:500億ユーロ、前年度比▲10%
・シュコダ:171億ユーロ、前年度比▲14%
・セアト:92億ユーロ、前年度比▲20%
・ベントレー:20億ユーロ、前年度比▲2%
・ポルシェ:261億ユーロ、前年度比+0%
・フォルクスワーゲン商用車:94億ユーロ、前年度比▲18%
・スカニア:115億ユーロ、前年度比▲17%
・マン商用車:108億ユーロ、前年度比▲14%
地域別の売上高構成比は、欧州等が60%、北米が16%、南米が4%、アジアパシフィックが20%(ほぼ中国)を占めます。
利益(セグメント別)の推移
FY2020の営業利益は97億ユーロと、前年度比▲43.0%となり、営業利益率は4.3%と、前年度の6.7%から低下しました。
ブランド別の営業利益は、以下の通りです。
なお、ポルシェとスカニアは金融サービスも含まれています。
FY2020のEPSは16.60ユーロと、前年度比▲37.6%、過去3年間で年率▲9.3%となりました。
キャッシュフローの推移
FY2020の営業キャッシュフローは249億ユーロと、前年度比+38.5%、過去5年間で年率+12.7%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は11.2%と、前年度の7.1%から改善しました。
FY2020のフリーキャッシュフローは72億ユーロと、前年度比黒字転換、過去5年間で年率+72.7%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は3.2%と、前年度の▲0.6%から改善しました。
株主還元(配当、自社株買い)の推移
自社株買いの実施はなしです。
(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2020の益利回り(PERの逆数)は9.8%、フリーキャッシュフロー利回りは8.4%と、バリュエーション面で割安感があります。
FY2020の配当利回りは2.8%です。
(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
過去5年間の配当性向(利益)は、30%を下回りました。
(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)
FY2020のDPSは4.8ユーロと、前年度比+0.0%、過去3年間で年率+7.2%となりました。
(参考)過去5年間の発行済株式数
過去5年間の発行済株式数は、横ばいとなりました。
ROICの推移
ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したか(投資効率)を測る指標となります。
正確な計算方法はないため、ここでは、税引後営業利益/投下資本(=運転資本+有形固定資産(リース含む)+無形固定資産+在庫+のれん)として計算しています。
少なくともWACC(加重平均資本コスト)を超えることが絶対条件と言われれています。
過去5年間のROICは5%以下と、投資効率は低いと言えます。
株価上昇率
FY2020(2020年1月から2020年12月末)の株価上昇率は▲1.8%と、世界株式を投資対象とするVT ETFの上昇率(+14.3%)を下回りました。
過去5年間(2016年1月から2020年12月末)の株価上昇率は年率+4.5%と、VT ETF(年率+9.9%)を下回りました。
競合他社(自動車製造)の株価上昇率(7203.T、7267.Tは日本円建て、VOW.DE、DAI.DE、BMW.DEはユーロ建て、1211.HKは香港ドル建て)は、以下の通りです。
フォルクスワーゲン(VOW.DE)の株価上昇率は、2020年の1年間で▲2%と、11社平均(+211%)を下回り、11社中第9位となりました。
2018年1月から2020年12月の3年間では+1%と、10社平均(+116%)を下回り、10社中第6位となりました。
過去10年間(2011年6月から2021年5月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
2015年4月から約6年間に渡ってドローダウンが続き、2020年11月から株価は急上昇しました。
(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。
DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを5.7%、金利が1%上昇した場合は6.6%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億ユーロ)の推移となります。
① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+20%、2年目〜4年目+15%、5年目〜6年目+12%、7年目〜10年目+10%。11年目以降の永続成長率は0%。
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+25%、2年目〜10年目+15%。11年目以降の永続成長率は0%。
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+20%、2年目+15%、3年目〜8年目+10%、9年目〜10年目+5%。11年目以降の永続成長率は0%。
メインシナリオの目標株価は373ユーロとなります。
フォルクスワーゲン(Volkswagen AG、VOW.DE)への投資について
FY2020(2020年1-12月期)の売上高は2,229億ユーロ(▲11.8%)、EPSは16.60ユーロ(前年度比▲37.6%)と、減収減益となりました。
DCF法による目標株価は373ユーロのため、2021年5月末時点の株価292ユーロより高い水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が2.7倍(年率+10%)、10年後に向けてフリーキャッシュフローマージンが4%(FY2020:3%)まで上昇することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
EVに注力しており、業績拡大が期待できます。