過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とトヨタ自動車への投資についてコメントします。
会社概要
トヨタ自動車(Toyota Motor Corporation、7203.T)
ホームページ(有報):リンク先
国:日本
セクター:一般消費財・サービス
産業グループ:自動車・自動車部品
サブ産業グループ:自動車製造
株式時価総額:2,155億ドル(世界ランキング第39位、日本ランキング第1位、2020年12月末)
浮動株調整後株式時価総額:1,654億ドル(2021年3月末、MSCI)
トヨタ自動車は、日本に本拠を置く、自動車(セダン、ミニバン、2BOX、スポーツユーティリティビークル、トラック等の自動車とその関連部品等)、金融、その他(情報通信)の事業を展開する、世界最大級の自動車メーカーです。
自動車販売台数は、2016年から2019年まで世界第2位だったものの、2020年はフォルクスワーゲンを抜き第1位です。
日本株式市場で第1位、一般消費財・サービスセクターで第8位の浮動株調整後株式時価総額で、自動車製造に占めるトヨタの浮動株調整後株式時価総額比率は12%です。
なお、トヨタ自動車は、浮動株比率がやや低い(大株主は、自己株式や豊田自動織機等)ため、浮動株ベースで算出される株式指数(インデックス)の時価総額は、通常の株式時価総額と比較して小さくなります。
(参考)競合他社(自動車製造)の株式時価総額
売上高(セグメント別、地域別)の推移
FY2020(2020年4月-2021年3月期)の売上高は27兆2,146億円と、前年度比▲8.9%、過去5年間で年率▲0.9%となりました。
事業別の売上高は、以下の通りです。
・自動車:24兆6,516億円、前年度比▲8%
・金融:2兆,1,622億円、前年度比▲1%
・その他:1兆0,524億円、前年度比▲30%
セグメント別の売上高構成比は、自動車が88%、金融が8%、その他が4%を占めます。
連結生産台数は755万台(前年度比▲14%)、連結販売台数は765万台(前年度比▲15%)、グループ総販売台数は992万台(前年度比▲5%)となりました。
日本生産台数は395万台、日本販売台数は213万台であり、輸出分は為替リスクを負います。
トヨタ/レクサス販売台数は賃貸住宅受注残高は909万台(前年度比▲4%)、電動車比率は23.7%となりました。
地域別の売上高は、以下の通りです。
・日本:14兆9,489億円、前年度比▲9%
・北米:9兆4,918億円、前年度比▲11%
・欧州:3兆1,345億円、前年度比▲7%
・アジア:5兆0,453億円、前年度比▲5%
・その他:1兆8,729億円、前年度比▲11%
地域別売上高構成比は、日本が43%、北米が28%、欧州が9%、アジアが15%、その他が5%を占めます。
利益(セグメント別)の推移
FY2020の営業利益は2兆1,977億円と、前年度比▲8.4%となりました。
営業利益率は8.1%と、前年度の8.0%とほぼ同水準となりました。
FY2020の営業利益の前年度比増減要因は、販売▲2,100億円、為替変動▲2,500億円、原価改善+1,500億円、諸経費低減努力+700億円、その他+436億円となりました。
セグメント別の営業利益率は、以下の通りです。
地域別の営業利益率は、以下の通りです。
FY2020のEPSは795円と、前年度比+10.4%、過去5年間で年率+1.4%となりました。
キャッシュフローの推移
FY2020の営業キャッシュフローは2兆7,272億円と、前年度比+13.7%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は10.0%と、前年度の8.0%から改善しました。
FY2020のフリーキャッシュフローは1兆2,348億円と、前年度比+45.8%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は4.5%と、前年度の2.8%から改善しました。
株主還元(配当、自社株買い)の推移
FY2020は、約2,000億円の自社株買いを実施しました。
(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2020の益利回り(PERの逆数)は9.2%、フリーキャッシュフロー利回りは5.1%と、バリュエーション面で割安感があります。
FY2020の配当利回りは2.8%です。
(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
過去5年間の配当性向(利益)は、40%を下回りました。
(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)
FY2020のDPSは240円と、前年度比+9.1%、過去5年間で年率+2.7%となりました。
(参考)過去5年間の発行済株式数
発行済株式数は、過去5年間で年率▲2.1%となりました。
ROICの推移
ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したか(投資効率)を測る指標となります。
正確な計算方法はないため、ここでは、税引後営業利益/投下資本(=運転資本+有形固定資産(リース含む)+無形固定資産+在庫+のれん)として計算しています。
少なくともWACC(加重平均資本コスト)を超えることが絶対条件と言われています。
過去5年間のROICは概ね10%程度と、投資効率は悪くありません。
BPSとPBRの推移
以下のグラフは、BPSとPBR(株価は会計年度末)の推移となります。
FY2020のBPSは8,371円と、前年度比+12.3%、過去5年間で年率+8.7%となりました。
FY2020のPBRは1.0倍と低水準です。
以下のグラフは、株式市場全体および11セクターのPBRと予想ROE(2021年3月末、MSCI)の散布図となります。
ROEが高いほど、PBRも高いことが言えます(決定係数は0.847と、説明力は非常に高い)。
金融セクターやエネルギーセクターは、ROEが低いためPBRの観点で割安に放置されています。
ROE10%であれば、PBRは1.7倍程度となります。
株価上昇率
FY2020(2020年4月から2021年3月末)の株価上昇率は+32.5%と、世界株式を投資対象とするVT ETFの上昇率(+54.9%)を下回りました。
過去5年間(2016年4月から2021年3月末)の株価上昇率は年率+7.7%と、VT ETF(年率+11.0%)を下回りました。
競合他社(自動車製造)の株価上昇率(7203.T、7267.Tは日本円建て、VOW.DE、DAI.DE、BMW.DEはユーロ建て、1211.HKは香港ドル建て)は、以下の通りです。
トヨタ(7203.T)の株価上昇率は、2020年の1年間で+3%と、11社平均(+211%)を下回り、11社中第7位となりました。
2018年1月から2020年12月の3年間では+10%と、10社平均(+116%)を下回り、10社中第3位となりました。
過去10年間(2011年6月から2021年5月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
2015年6月から2021年2月末まで長いドローダウン(最大▲40%超)が続きました。
(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。
DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを5.0%、金利が1%上昇した場合は5.9%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億円)の推移となります。
① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+15%、2年目〜6年目+10%、7年目〜10年目+6%。11年目以降の永続成長率は0%。
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+15%、2年目〜10年目+10%。11年目以降の永続成長率は0%。
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+15%、2年目〜10年目+5%。11年目以降の永続成長率は0%。
メインシナリオの目標株価は9,326円となります。
トヨタ自動車(Toyota Motor Corporation、7203.T)への投資について
FY2020(2020年4月-2021年3月期)の売上高は27兆2,416億円(前年度比▲8.9%)、純利益は2兆2,453億円(前年度比+10.3%)と、減収増益となりました。
FY2021のガイダンス(前提:1ドル=105円、1ユーロ=125円)は、以下の通りです。
・売上高:30兆円
・営業利益:2兆5,000億円
・純利益:2兆3,000億円
・トヨタ/レクサス販売台数:960万台
・グループ総販売台数:1,055万台
2021年9月末基準日で、株式分割(株式1株につき5株の割合)の予定です。
DCF法による目標株価は9,326円のため、2021年5月末時点の株価9,115円とほぼ同水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が1.5倍(年率+4%)、10年後に向けてフリーキャッシュフローマージンが7%まで上昇することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
アフターコロナを見据えて、株価が急騰しました。
EV化を進める欧州にとって都合の良いルールがグローバルスタンダート化することに加え、新規参入等による競争激化によって、これまで自動車業界においてダントツで勝ち組だったトヨタは、超長期でみて苦戦を強いられる可能性はあります。