過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とマスターカードへの投資についてコメントします。
会社概要
マスターカード(Mastercard、MA)
ホームページ(SECファイル):リンク先
国:アメリカ
セクター:情報技術
産業グループ:ソフトウェア・サービス
サブ産業グループ:情報処理・外注サービス
株式時価総額:3,531億ドル(世界ランキング第25位、2021年12月末)
マスターカードは、アメリカに本拠を置く、金融機関にペイメントプラットフォームとサービスを提供する企業です。
クレジットカードの発行や消費者に対する与信判断、貸金業等を実施しないことから、金融ではなく、情報技術セクターに分類されています(MSCIのセクター分類が金融へ今後変更予定です)。
(参考)競合他社(情報処理・外注サービス)の株式時価総額(2021年12月末)
株式時価総額 | |
ビザ(V) | 4,711億ドル |
マスターカード(MA) | 3,531億ドル |
ペイパル (PYPL) | 2,216億ドル |
ADP(ADP) | 1,039億ドル |
アディエン(ADYEN.AS) | 823億ドル |
ブロック(旧スクエア、SQ) | 745億ドル |
ファイサーブ(FISV) | 685億ドル |
フィデリティ・ナショナル・インフォメーション・サービシズ(FIS) | 665億ドル |
ペイチェックス(PAYX) | 492億ドル |
グローバル・ペイメンツ(GPN) | 392億ドル |
アマデウスITグループ(AMS.MC) | 305億ドル |
ブロードリッジ・ファイナンシャル・ソリューションズ(BR) | 213億ドル |
フリートコア・テクノロジーズ(FLT) | 182億ドル |
アフターペイ(APT.AX) | 179億ドル |
ワールドライン(WLN.PA) | 155億ドル |
ストーン(STNE) | 52億ドル |
売上高(セグメント別、地域別)の推移
FY2021(2021年1月-2021年12月期)の売上高は189億ドルと、前年度比+23.4%、過去5年間で年率+11.9%となりました。
2022Q1(2022年1−3月期)の売上高は52億ドル(前年同期比+26.6%)と、コンセンサス(51.7億ドル)を上回りました。
セグメント別の売上高は、以下の通りです。
・国内取引:22億ドル、前年同期比+24%
・海外取引:14億ドル、前年同期比+59%
・決済処理:30億ドル、前年同期比+26%
・その他:18億ドル、前年同期比+29%
・奨励金:▲32億ドル
地域別の売上高は、以下の通りです。
・北米:17.9億ドル、前年同期比+22%
・海外:33.5億ドル、前年同期比+29%
決済額、クロスボーダー決済額の推移
2021Q4の決済額は、以下の通りです。
・全体:2.11兆ドル、前年同期比+21%
・クレジット:0.98兆ドル、前年同期比+23%
・デビット/プリペイド:1.14兆ドル、前年同期比+20%
2021Q4のクロスボーダー決済額(ドルベース)は前年同期比+50%と、回復中です。
利益の推移
FY2021の営業利益は101億ドルと、前年度比+24.8%、過去5年間で年率+11.8%となりました。
営業利益率は53.4%と、前年度の52.8%から改善しました。
2021Q4の営業利益は28億ドル(前年同期比+37.4%)となりました。
FY2021の非GAAP EPSは8.40ドルと、前年度比+30.6%、過去5年間で年率+17.4%となりました。
2021Q4の非GAAP EPSは2.35ドル(前年同期比+48.1%)と、コンセンサス(2.21ドル)を上回りました。
キャッシュフローの推移
FY2021の営業キャッシュフローは95億ドルと、前年度比+31.0%、過去5年間で年率+15.3%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は50.1%と、前年度の47.2%から改善しました。
2021Q4の営業キャッシュフローは32億ドル(前年同期比+41.5%)となりました。
FY2021のフリーキャッシュフローは86億ドルと、前年度比+32.7%、過去5年間で年率+15.2%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は45.8%と、前年度の42.6%から改善しました。
2021Q4のフリーキャッシュフローは30億ドル(前年同期比+40.9%)となりました。
株主還元(配当、自社株買い)の推移
自社株買いに積極的です。
(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2021の益利回り(PERの逆数)は2.4%、フリーキャッシュフロー利回りは2.4%です。
過去5年間の配当利回りは0.5%程度です。
(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
過去5年間の配当性向は、利益・キャッシュフローベースともに30%を下回りました。
過去5年間の総還元性向は、利益・キャッシュフローベースともに100%程度と、株主にほぼ全て還元しました。
(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)
FY2021のDPSは1.76ドルと、前年度比+10.0%、過去5年間で年率+17.4%となりました。
(参考)過去5年間の発行済株式数
発行済株式数は、過去5年間で年率▲2.1%となりました。
ROICの推移
ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したか(投資効率)を測る指標となります。
正確な計算方法はないため、ここでは、税引後営業利益/投下資本(=運転資本+有形固定資産(リース含む)+無形固定資産+在庫+のれん)として計算しています。
少なくともWACC(加重平均資本コスト)を超えることが絶対条件と言われれています。
過去5年間のROICは50〜90%程度と、投資効率は非常に高いです。
売上高およびEPSの実績値とコンセンサスの推移
売上高の実績値(コンセンサス比)は、過去12四半期中、11勝、1敗です。
非GAAP EPSの実績値(コンセンサス比)は、過去12四半期中、11勝、1敗です。
売上高(億ドル) | 非GAAP EPS(ドル) | |||||
実績値 | コンセンサス | 勝敗 | 実績値 | コンセンサス | 勝敗 | |
2019Q1 | 38.9 | 38.6 | ○ | 1.78 | 1.66 | ○ |
2019Q2 | 41.0 | 40.8 | ○ | 1.89 | 1.83 | ○ |
2019Q3 | 44.5 | 44.1 | ○ | 2.15 | 2.01 | ○ |
2019Q4 | 44.1 | 44.0 | ○ | 1.96 | 1.87 | ○ |
2020Q1 | 40.0 | 39.8 | ○ | 1.83 | 1.73 | ○ |
2020Q2 | 33.0 | 32.6 | ○ | 1.36 | 1.18 | ○ |
2020Q3 | 38.4 | 39.5 | × | 1.60 | 1.66 | × |
2020Q4 | 41.2 | 40.1 | ○ | 1.64 | 1.52 | ○ |
2021Q1 | 41.6 | 40.5 | ○ | 1.74 | 1.56 | ○ |
2021Q2 | 45.0 | 43.7 | ○ | 1.95 | 1.75 | ○ |
2021Q3 | 50.0 | 49.5 | ○ | 2.37 | 2.19 | ○ |
2021Q4 | 52.0 | 51.7 | ○ | 2.35 | 2.21 | ○ |
株価上昇率
FY2021の株価上昇率は+0.7%と、S&P500(+26.9%)を下回りました。
過去5年間(2017年1月から2021年12月末)の株価上昇率は年率+28.3%と、S&P500(年率+16.3%)を大きく上回りました。
2021Q4の株価上昇率は+3.3%と、S&P500(+10.6%)を下回りました。
競合他社(情報処理・外注サービス)の株価上昇率(ADYEN.AS、AMS.MC、WLN.PAはユーロ建て、APT.AXはオーストラリアドル建て、その他はUSドル建て)は、以下の通りです。
マスターカード(MA)の株価上昇率は、2021年の1年間で+1%と、16社平均(▲10%)を上回り、16社中第5位となりました。
2019年1月から2021年12月の3年間では+90%と、16社平均(+104%)を下回り、16社中第6位となりました。
過去10年間(2012年3月から2022年2月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
最高値から10〜15%程度下落すると反発する傾向にあるため、その時が狙い目です。
(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。
DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを6.1%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億ドル)の推移となります。
① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜3年目+20%、4年目〜6年目+12%、7年目〜10年目+10%。11年目以降の永続成長率は0%
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜3年目+20%、4年目〜10年目+15%。11年目以降の永続成長率は0%
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜2年目+20%、3年目〜6年目+10%、7年目〜10年目+5%。11年目以降の永続成長率は0%
メインシナリオの目標株価は418ドルとなります。
・メインシナリオ:418ドル
・アップサイドシナリオ:517ドル
・ダウンサイドシナリオ:318ドル
マスターカード(Mastercard、MA)への投資について
2021Q4(2021年10−12月期)の売上高は52.0億ドル(コンセンサス51.7億ドル)、非GAAP EPSは2.35ドル(コンセンサス2.21ドル)と、コンセンサスを上回る実績となりました。
FY2022からFY2024の売上高目標は、10%代後半です。
DCF法による目標株価は418ドルのため、2022年2月末時点の株価361ドルより高い水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が3.6倍(年率+14%)、フリーキャッシュフローマージンは横ばいで推移することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
自社株買いに積極的なので、発行済株式数の減少による株価上昇も可能です。
コロナ収束後は、海外取引の急回復で業績も回復していくことが期待できます。
安定性を求めるならビザ(V)、成長性を求めるならマスターカード(MA)です。
クレジットカード以外の決済手段の普及等により、ビザやマスターカードの優位性は低下していく可能性がありますが、コロナ収束後は業績拡大が期待できます。