過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とエルメスへの投資についてコメントします。
会社概要
エルメス(Hermes、RMS.PA)
ホームページ(IR):リンク先
国:フランス
セクター:一般消費財・サービス
産業グループ:耐久消費財・アパレル
サブ産業グループ:アパレル・アクセサリー・贅沢品
株式時価総額:1,863億ドル(世界ランキング第66位、2021年12月末)
エルメスは、フランスに本拠を置く、ラグジュアリーブランドに特化した企業です。
エルメスと言えば、バーキンなどのバッグが有名ですが、1人の職人がすべての工程にわたって手作業で仕上げるため、1つのバーキンを作るのに20時間以上かかります。
機械化せず、1人で完成させるプロセスが、さらに職人の技術力を向上させ、そのため納品までに何年も待つため、買いたくても買えない状態が続き、高いブランド力を維持できます。
なお、エルメスは、浮動株比率が非常に低いため、浮動株ベースで算出される株式指数(インデックス)の時価総額は、通常の株式時価総額と比較して小さくなります。
(参考)競合他社(アパレル・アクセサリー・贅沢品、履物)の株式時価総額(2021年12月末)
株式時価総額 | |
LVMH モエヘネシー・ルイヴィトン(MC.PA) | 4,187億ドル |
ナイキ(NKE) | 2,638億ドル |
エルメス(RMS.PA) | 1,863億ドル |
クリスチャン・ディオール(CDI.PA) | 1,479億ドル |
ケリング(KER.PA) | 1,003億ドル |
エシロールルックスオティカ(EL.PA) | 921億ドル |
リシュモン(CFR.SW) | 851億ドル |
アディダス(ADS.DE) | 562億ドル |
ルルレモン・アスレティカ(LULU) | 506億ドル |
アンタ・スポーツ・プロダクツ/安踏体育用品(2020.HK) | 407億ドル |
シェンジョウ・インターナショナル/申洲国際(2313.HK) | 290億ドル |
VFコーポレーション(VFC) | 288億ドル |
リー・ニン/李寧(2331.HK) | 277億ドル |
モンクレール(MONC.MI) | 196億ドル |
プーマ(PUM.DE) | 186億ドル |
プラダ(1913.HK) | 166億ドル |
スウォッチ・グループ(UHR.SW) | 155億ドル |
タペストリー(TPR) | 112億ドル |
バーバリー・グループ(BRBY.L) | 99億ドル |
売上高(セグメント別、地域別)の推移
FY2021(2021年1-12月期)の売上高は90億ユーロと、前年度比+40.6%、過去5年間で年率+11.5%となりました。
セグメント別の売上高は、以下の通りです。
・レザーグッズ&サドラー(バッグ等):41億ユーロ、前年度比+27%
・プレタポルテ&アクセサリー:22億ユーロ、前年度比+57%
・シルク&テキスタイル:7億ユーロ、前年度比+48%
・その他エルメス:10億ユーロ、前年度比+56%
・香水:4億ユーロ、前年度比+46%
・時計:3億ユーロ、前年度比+72%
・その他製品:3億ユーロ、前年度比+28%
セグメント別の売上高構成比は、レザーグッズ&サドラーが46%、プレタポルテ&アクセサリーが25%を占めます。
地域別の売上高は、以下の通りです。
・フランス:8億ユーロ、前年度比+35%
・欧州(除くフランス):13億ユーロ、前年度比+37%
・日本:10億ユーロ、前年度比+17%
・アジアパシフィック(除く日本):43億ユーロ、前年度比+46%
・アメリカ:15億ユーロ、前年度比+52%
地域別の売上高構成比は、アジアパシフィック(除く日本)が47%、アメリカが16%を占めます。
利益(地域別)の推移
FY2021の営業利益は35億ユーロと、前年度比+70.3%、過去5年間で年率+15.8%となりました。
営業利益率は39.3%と、前年度の32.4%から改善しました。
地域別の営業利益率は、以下の通りです。
FY2021のEPSは23.30ユーロと、前年度比+76.4%、過去5年間で年率+17.3%となりました。
キャッシュフローの推移
FY2021の営業キャッシュフローは34億ユーロと、前年度比+107%、過去5年間で年率+18.2%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は37.9%と、前年度の25.7%から改善しました。
FY2021のフリーキャッシュフローは29億ユーロと、前年度比+141%、過去5年間で年率+18.8%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は32.0%と、前年度の18.7%から改善しました。
株主還元(配当、自社株買い)の推移
自社株買いに消極的です。
(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2021の益利回り(PERの逆数)は2.1%、フリーキャッシュフロー利回りは2.5%と、バリュエーション面での割安感はありません。
FY2021の配当利回りは0.7%です。
(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
FY2021の配当性向、総還元性向は、利益・キャッシュフローベースともに、30%程度です。
(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)
FY2021のDPSは8.00ユーロと、前年度比+75.8%、過去5年間で年率+16.4%となりました。
FY2017は一部特別配当です。
(参考)過去5年間の発行済株式数
過去5年間の発行済株式数は、ほぼ横ばいとなりました。
ROICの推移
ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したか(投資効率)を測る指標となります。
正確な計算方法はないため、ここでは、税引後営業利益/投下資本(=運転資本+有形固定資産(リース含む)+無形固定資産+在庫+のれん)として計算しています。
少なくともWACC(加重平均資本コスト)を超えることが絶対条件と言われています。
FY2021のROICは50%と、投資効率は非常に高いです。
株価上昇率
FY2021の株価上昇率は+26.2%と、世界株式を投資対象とするVT(+16.0%)を上回りました。
過去5年間(2017年1月から2021年12月末)の株価上昇率は年率+23.5%と、VT(年率+12.0%)を大きく上回りました。
競合他社(アパレル・アクセサリー・贅沢品、履物)の株価上昇率(MC.PA、RMS.PA、CDI.PA、KER.PA、EL.PA、ADS.DE、MONC.MI、PUM.DEはユーロ建て、CFR.SW、UHR.SWはスイスフラン建て、2020.HK、2313.HK、2331.HK、1913.HKは香港ドル建て、BRBY.Lはポンド建て)は、以下の通りです。
エルメス(RMS.PA)の株価上昇率は、2021年の1年間で+75%と、19社平均(+24%)を上回り、19社中第1位となりました。
2019年1月から2021年12月の3年間では+217%と、19社平均(+145%)を上回り、19社中第3位となりました。
過去10年間(2012年7月から2022年6月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
株価が急騰した反動で、過去10年間で最も大きなドローダウン中です。
(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。
DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを6.2%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億ユーロ)の推移となります。
① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜3年目+15%、4年目〜10年目+10%。11年目以降の永続成長率は0%。
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+20%、2年目〜10年目+15%。11年目以降の永続成長率は0%。
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜3年目+10%、4年目〜10年目+5%。11年目以降の永続成長率は0%。
メインシナリオの目標株価は1,140ユーロとなります。
・メインシナリオ:1,140ユーロ
・アップサイドシナリオ:1,521ユーロ
・ダウンサイドシナリオ:791ユーロ
エルメス(Hermes、RMS.PA)への投資について
FY2021(2021年1-12月期)の売上高は90億ユーロと、前年度比+40.6%、過去5年間で年率+11.5%となりました。
高いブランド力を背景に、競合他社と比較して、高い営業利益率です。
ROICは50%と、競合他社と比較して投資効率は非常に高いです。
キャッシュリッチで財務体質は盤石ですが、株主還元に積極的とは言い難いです。
DCF法による目標株価は1,140ユーロのため、2022年6月末時点の株価1,067ユーロと同水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が3.0倍(年率+11%)、フリーキャッシュフローマージンが横ばいで推移することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
フリーキャッシュフローベースでは割高感は常に否めませんが、ROICが非常に高いことから、株価急落局面では拾いたいと思います。