過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とケリングへの投資についてコメントします。
会社概要
ケリング(Kering、KER.PA)
ホームページ(IR):リンク先
国:フランス
セクター:一般消費財・サービス
産業グループ:耐久消費財・アパレル
サブ産業グループ:アパレル・アクセサリー・贅沢品
株式時価総額:1,003億ドル(2021年12月末)
ケリングは、フランスに本拠を置く、グッチやサンローラン、ボッテガ・ヴェネタ、バレンシアガなど高級ブランドファッションやジュエリー、アクセサリーなど、ラグジュアリー商品に特化した企業です。
なお、ケリングは、浮動株比率が低い(大株主は、ピノー氏のプライベート投資会社であるアルテミス40%超)ため、浮動株ベースで算出される株式指数(インデックス)の時価総額は、通常の株式時価総額と比較して小さくなります。
(参考)競合他社(アパレル・アクセサリー・贅沢品、履物)の株式時価総額(2021年12月末)
株式時価総額 | |
LVMH モエヘネシー・ルイヴィトン(MC.PA) | 4,187億ドル |
ナイキ(NKE) | 2,638億ドル |
エルメス(RMS.PA) | 1,863億ドル |
クリスチャン・ディオール(CDI.PA) | 1,479億ドル |
ケリング(KER.PA) | 1,003億ドル |
エシロールルックスオティカ(EL.PA) | 921億ドル |
リシュモン(CFR.SW) | 851億ドル |
アディダス(ADS.DE) | 562億ドル |
ルルレモン・アスレティカ(LULU) | 506億ドル |
アンタ・スポーツ・プロダクツ/安踏体育用品(2020.HK) | 407億ドル |
シェンジョウ・インターナショナル/申洲国際(2313.HK) | 290億ドル |
VFコーポレーション(VFC) | 288億ドル |
リー・ニン/李寧(2331.HK) | 277億ドル |
モンクレール(MONC.MI) | 196億ドル |
プーマ(PUM.DE) | 186億ドル |
プラダ(1913.HK) | 166億ドル |
スウォッチ・グループ(UHR.SW) | 155億ドル |
タペストリー(TPR) | 112億ドル |
バーバリー・グループ(BRBY.L) | 99億ドル |
売上高(セグメント別、地域別)の推移
FY2021(2021年1-12月期)の売上高は176億ユーロと、前年度比+34.7%、過去5年間で年率+7.3%となりました。

セグメント別(コーポレート等除く)の売上高は、以下の通りです。
・グッチ:97億ユーロ、前年度比+31%
・サンローラン:25億ユーロ、前年度比+45%
・ボッテガ ヴェネタ:15億ユーロ、前年度比+9%
・その他ブランド:33億ユーロ、前年度比+43%
セグメント別の売上高構成比は、グッチが57%、サンローランが15%、ボッテガ ヴェネタが9%を占めます。

地域別の売上高は、以下の通りです。
・西欧:40億ユーロ、前年度比+11%
・北米:47億ユーロ、前年度比+71%
・日本:11億ユーロ、前年度比+14%
・アジアパシフィック(除く日本):67億ユーロ、前年度比+35%
・その他:12億ユーロ、前年度比+46%
地域別の売上高構成比は、アジアパシフィック(除く日本)が38%、北米が27%、西欧が23%を占めます。

利益(セグメント別、地域別)の推移
FY2021の営業利益は48億ユーロと、前年度比+45.5%、過去5年間で年率+28.3%となりました。
営業利益率は27.2%と、前年度の25.2%から改善しました。

セグメント別の営業利益率は、以下の通りです。

FY2021のEPSは25.49ユーロと、前年度比+48.2%、過去5年間で年率+31.6%となりました。

キャッシュフローの推移
FY2021の営業キャッシュフローは49億ユーロと、前年度比+68.8%、過去5年間で年率+22.2%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は27.6%と、前年度の22.1%から改善しました。

FY2021のフリーキャッシュフローは39億ユーロと、前年度比+87.5%、過去5年間で年率+27.3%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は22.3%と、前年度の16.0%から改善しました。

株主還元(配当、自社株買い)の推移
自社株買いは消極的です。

(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2021の益利回り(PERの逆数)は3.6%、フリーキャッシュフロー利回りは4.5%です。
配当利回りは1.7%です。

(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
過去5年間の配当性向(利益ベース)は、50%前後です。

(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)
FY2021のDPSは12.0ユーロと、前年度比+50.0%、過去5年間で年率+21.1%となりました。

(参考)過去5年間の発行済株式数
過去5年間の発行済株式数は、ほぼ横ばいとなりました。

ROICの推移
ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したか(投資効率)を測る指標となります。
正確な計算方法はないため、ここでは、税引後営業利益/投下資本(=運転資本+有形固定資産(リース含む)+無形固定資産+在庫+のれん)として計算しています。
少なくともWACC(加重平均資本コスト)を超えることが絶対条件と言われています。
過去5年間のROICは10〜20%程度であり、投資効率は比較的高いです。

株価上昇率
FY2020の株価上昇率は+18.9%と、世界株式を投資対象とするVT(+16.0%)を上回りました。
過去5年間(2017年1月から2021年12月末)の株価上昇率は年率+28.9%と、VT(年率+12.0%)を大きく上回りました。
競合他社(アパレル・アクセサリー・贅沢品、履物)の株価上昇率(MC.PA、RMS.PA、CDI.PA、KER.PA、EL.PA、ADS.DE、MONC.MI、PUM.DEはユーロ建て、CFR.SW、UHR.SWはスイスフラン建て、2020.HK、2313.HK、2331.HK、1913.HKは香港ドル建て、BRBY.Lはポンド建て)は、以下の通りです。
ケリング(KER.PA)の株価上昇率は、2021年の1年間で+19%と、19社平均(+24%)を下回り、19社中第9位となりました。
2019年1月から2021年12月の3年間では+72%と、19社平均(+145%)を下回り、19社中第12位となりました。

過去10年間(2012年7月から2022年6月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
株式市場全体(VT)と比較して大きなドローダウンが度々発生しています。
(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。
DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを6.9%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億ユーロ)の推移となります。

① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+0%、2年目〜5年目+10%、6年目〜10年目+5%。11年目以降の永続成長率は0%。
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜10年目+10%。11年目以降の永続成長率は0%。
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目▲10%、2年目〜10年目+0%。11年目以降の永続成長率は0%。
メインシナリオでの目標株価は722ユーロとなります。
・メインシナリオ:722ユーロ
・アップサイドシナリオ:953ユーロ
・ダウンサイドシナリオ:378ユーロ
ケリング(Kering、KER.PA)への投資について
FY2021の売上高は176億ユーロと、前年度比+34.7%、過去5年間で年率+7.3%となりました。
高いブランド力を背景に、キャッシュフローマージンは比較的高い水準です。
ROICは10〜20%程度あることから、投資効率も比較的高いです。
DCF法による目標株価は722ユーロのため、2022年6月末時点の株価490ユーロより高い水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が2.1倍(年率+7%)、10年後に向けてフリーキャッシュフローマージンが20%まで低下することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
競合他社のなかではエルメスが最も魅力的ですが、ケリングは相対的に株価が低いようにみえます。
投資継続です。






