過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とアリババへの投資についてコメントします。
会社概要
アリババ(Alibaba、9988.HK、BABA)
ホームページ(SECファイル):リンク先
国:中国
セクター:一般消費財・サービス
産業グループ:小売
サブ産業グループ:インターネット販売・通信販売
株式時価総額:6,437億ドル(世界ランキング第9位、2020年12月末)
浮動株調整後株式時価総額:4,408億ドル(2020年12月末、MSCI)
アリババは、中国に本拠を置く、電子商取引やITサービスを提供する企業です。
世界株式市場で第8位、中国株式市場で第1位、一般消費財・サービスセクターで第2位の浮動株調整後株式時価総額で、インターネット販売、通信販売に占めるアリババの浮動株調整後株式時価総額比率は17%です。
なお、アリババは、浮動株比率が低い(大株主は、ソフトバンクグループ等)ため、浮動株ベースで算出される株式指数(インデックス)の時価総額は、通常の株式時価総額と比較して小さくなります。

売上高(セグメント別)の推移
2021Q4(2021年1−3月期)の売上高は1,874億人民元(前年同期比+63.9%)となり、コンセンサス(1,807億ドル)を上回りました。

セグメント別の売上高(4セグメント以外を除く)は、以下の通りです。
・eコマース:1,614億人民元、前年同期比+72%
・クラウドコンピューティング:168億人民元、前年同期比+37%
・デジタルメディア&エンターテインメント:80億人民元、前年同期比+35%
・その他:12億人民元、前年同期比▲47%

セグメント別の売上高構成比は、eコマースが86%を占めます。

(参考)過去5年間の売上高
売上高は、過去3年間で年率+42.0%となりました。

アクティブ消費者数、モバイルアクティブユーザー数
2021年3月末の中国リテール向けマーケットプレイスにおける年次アクティブ消費者数は9.25億(前年同期比+9.3%)、モバイル月次アクティブユーザー数は8.11億(前年同期比+11.7%)となりました。

利益(セグメント別)の推移
2021Q4の非GAAP EBITDAは299億人民元(前年同期比+17.5%)、EBITDAマージンは16.0%と、前年同期の22.3%から悪化しました。

セグメント別の非GAAP EBITAは、以下の通りです。
クラウドコンピューティングの非GAAP EBITAが2四半期連続で黒字(営業利益は引き続き赤字)となりました。

2021Q4のEPSは▲1.99人民元と、独占禁止法の罰金の影響で前年同期比赤字転落となりました。
非GAAP EPSは10.32ドル(前年同期比+12.2%)と、コンセンサス(13.28ドル)を下回りました。

(参考)過去5年間のEPS
EPSは、過去3年間で年率+30.8%となりました。

キャッシュフローの推移
2021Q4の営業キャッシュフローは242億人民元(前年同期比+1,018%)となりました。

2021Q4のフリーキャッシュフローは181億人民元(前年同期比黒字転換)となりました。

(参考)過去5年間の営業キャッシュフロー
営業キャッシュフローは、過去3年間で年率+22.6%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は32.3%と、前年度の35.4%から悪化しました。

(参考)過去5年間のフリーキャッシュフロー
フリーキャッシュフローは、過去3年間で年率+25.4%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は27.0%と、前年度の28.1%から悪化しました。

株主還元(配当、自社株買い)の推移
株主還元に消極的です(FY2021はアニュアルレポートが出ていないため未入力)。

(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2020の益利回り(PERの逆数)は3.7%、フリーキャッシュフロー利回りは4.8%と、競合他社と比較すると、バリュエーション面で割安感があります。

(参考)過去5年間の発行済株式数
発行済株式数は、過去3年間で年率+1.7%となりました。

株価上昇率
過去1年間(2020年4月から2021年3月末)の株価上昇率は+16.6%と、世界株式を投資対象とするVT ETFの上昇率+54.9%を下回りました。

競合他社(小売)の株価上昇率(Meituanは香港ドル建て、FastRは日本円建て、その他はドル建て)は、以下の通りです。
アリババ(BABA)の株価上昇率は、2020年の1年間で+10%と、13社平均(+91%)を下回り、13社中第12位となりました。
2018年1月から2020年12月の3年間では+35%と、11社平均(+125%)を下回り、11社中第10位となりました。

2014年9月から2021年4月のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
足もとのドローダウンが、2015年と同様に40%超となった場合、株価は180ドル程度まで下落する可能性があります。

(参考)過去5年間の株価上昇率(会計年度ベース)
過去5年間(2016年4月から2021年3月末)の株価上昇率は年率+23.5%と、VT ETF(年率+11.0%)を大きく上回りました。

(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。

DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを9.0%、金利が1%上昇した場合は10.0%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億人民元)の推移となります。

① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+25%、2年目〜4年目+15%、5年目〜10年目+8%。11年目以降の永続成長率は0%。
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+25%、2年目〜4年目+20%、5年目〜10年目+10%。11年目以降の永続成長率は0%。
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+25%、2年目〜〜10年目+0%。11年目以降の永続成長率は0%。
メインシナリオの目標株価は304香港ドルとなります。

アリババ(Alibaba、9988.HK、BABA)株への投資について
2021Q4(2021年1−3月期)の売上高は1,874億人民元(コンセンサス1,807億ドル)と、コンセンサスを上回りましたが、非GAAP EPSは10.32ドル(コンセンサス13.28ドル)と、コンセンサスを下回る実績となりました。
独占禁止法の罰金により、営業利益および最終利益は赤字転落となりました。
また、クラウドの成長率が+37%と、鈍化しました。
キャッシュフローマージンは低下傾向にあり、引き続きJDドットコム(JD)やピンデュオデュオ(PDD)等との激しい競争が想定されます。
DCF法による目標株価は304香港ドルのため、2021年4月末時点の株価225香港ドル(231USドル)より高い水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が4.0倍(年率+15%)、10年後に向けてフリーキャッシュフローマージンが20%(FY2021:28%)まで低下することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
アリババのビジネスモデルは個人的に好きでないため(アリババや楽天よりアマゾンの方が買い物しやすい)、投資することはないと思いますが、バリュエーション面だけみると競合他社と比較して割安です。
過去のドローダウンから、株価が180ドルを下回った場合は、絶好の買い場と言えそうです。




