過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とキヤノンへの投資についてコメントします。
会社概要
キヤノン(Canon Inc.、7751.T)
ホームページ(有報):リンク先
国:日本
セクター:情報技術
産業グループ:テクノロジー・ハードウェアおよび機器
サブ産業グループ:テクノロジーハードウェア・コンピュータ記憶装置・周辺機器
株式時価総額:2.6兆円(日本ランキング第56位、2020年12月末)
キヤノンは、日本に本拠を置く、プリンティング(オフィス向け複合機、レーザー複合機、レーザープリンター、インクジェットプリンター、デジタル連帳プリンター等)、イメージング(カメラ、ネットワークカメラ等)、メディカル(X線診断装置、MRI装置等)、インダストリアル等(露光装置、有機ELディスプレイ製造装置等)の事業を展開する企業です。
2020年度の世界シェア1位の製品は、デジタルカメラ(41%)、レーザープリンター(40%)、FPD露光装置(62%)、世界シェア2位の製品は、インクジェットプリンター(28%)、複合機(18%)、半導体露光装置(31%)が挙げられます。
(参考)競合他社(テクノロジーハードウェア・コンピュータ記憶装置・周辺機器)の株式時価総額
売上高(セグメント別、地域別)の推移
FY2020(2020年1月-2020年12月期)の売上高は3兆1,602億円と、前年度比▲12.1%、過去5年間で年率▲3.6%となりました。
セグメント別の売上高は、以下の通りです。
・プリンティング(オフィス複合機):7,230億円
・プリンティング(レーザープリンター等):8,309億円
・プリンティング(プロダクション):2,505億円
・イメージング(カメラ):3,477億円
・イメージング(ネットワークカメラ):1,936億円
・メディカル:4,361億円
・インダストリアル等(露光装置):1,425億円
・インダストリアル等(産業機器):1,324億円
・インダストリアル等(その他):1,866億円
セグメント別の売上高構成比は、プリンティングが56%、イメージングが17%、メディカルが13%、インダストリアル等が14%を占めます。
地域別の売上高構成比は、日本が26%、米州が27%、欧州が25%、アジア/オセアニアが22%を占めます。
利益(セグメント別)の推移
FY2020の営業利益は1,105億円と、前年度比▲36.6%、過去5年間で年率▲20.8%となりました。
営業利益率は3.5%と、前年度の4.9%から悪化しました。
セグメント別の営業利益率は、以下の通りです。
FY2020のEPSは79円と、前年度比▲32.0%、過去5年間で年率▲17.0%となりました。
キャッシュフローの推移
FY2020の営業キャッシュフローは3,338億円と、前年度比▲6.9%、過去5年間で年率▲6.8%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は10.6%と、前年度の10.0%から改善しました。
FY2020のフリーキャッシュフローは1,691億円と、前年度比+18.4%、過去5年間で年率▲5.3%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は5.4%と、前年度の4.0%から改善しました。
株主還元(配当、自社株買い)の推移
2年連続で、500億円の自社株買いを実施しました。
(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2020の益利回り(PERの逆数)は4.0%、フリーキャッシュフロー利回りは8.1%です。
FY2020の配当利回りは4.0%です。
(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
過去2年間の配当性向(利益)は、100%を超えました。
(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)
FY2020のDPSは80円と、前年度比▲50.0%、過去5年間で年率▲11.8%となりました。
(参考)過去5年間の発行済株式数
発行済株式数は、過去5年間で年率▲0.8%となりました。
ROICの推移
ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したか(投資効率)を測る指標となります。
正確な計算方法はないため、ここでは、税引後営業利益/投下資本(=運転資本+有形固定資産(リース含む)+無形固定資産+在庫+のれん)として計算しています。
少なくともWACC(加重平均資本コスト)を超えることが絶対条件と言われています。
過去2年間のROICは4%以下と、投資効率は低いです。
BPSとPBRの推移
以下のグラフは、BPSとPBR(株価は会計年度末)の推移となります。
FY2020のBPSは2,463円と、前年度比▲2.4%、過去5年間で年率▲1.9%となりました。
FY2020のPBRは0.8倍です。
以下のグラフは、株式市場全体および11セクターのPBRと予想ROE(2021年3月末、MSCI)の散布図となります。
ROEが高いほど、PBRも高いことが言えます(決定係数は0.847と、説明力は非常に高い)。
金融セクターやエネルギーセクターは、ROEが低いためPBRの観点で割安に放置されています。
株価上昇率
FY2020(2020年1月から2020年12月末)の株価上昇率は▲33.8%と、世界株式を投資対象とするVT ETFの上昇率(+14.3%)を下回りました。
過去5年間(2016年1月から2020年12月末)の株価上昇率は年率▲11.7%と、VT ETF(年率+9.9%)を大きく下回りました。
競合他社(テクノロジーハードウェア・コンピュータ記憶装置・周辺機器)の株価上昇率(005930.KSは韓国ウォン建て、1810.HK、0992.HKは香港ドル建て、4901.T、7751.Tは日本円建て、その他はUSドル建て)は、以下の通りです。
キヤノン(7751.T)の株価上昇率は、2020年の1年間で▲34%と、13社平均(+37%)を下回り、13社中第13位となりました。
2018年1月から2020年12月の3年間では▲53%と、11社平均(+48%)を下回り、11社中第11位となりました。
過去10年間(2011年6月から2021年5月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
2018年2月以降ドローダウン(最大60%超)が続いています。
(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。
下落トレンドで、ポジティブサプライズがない限り、当面は上昇トレンドが期待できません。
DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを5.3%、金利が1%上昇した場合は6.2%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億円)の推移となります。
① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+12%、2年目〜10年目+0%。11年目以降の永続成長率は0%。
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+12%、2年目+5%、3年目〜10年目+1%。11年目以降の永続成長率は0%。
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜10年目+0%。11年目以降の永続成長率は0%。
メインシナリオの目標株価は2,940円となります。
キヤノン(Canon Inc.、7751.T)への投資について
FY2020(2020年1月-2020年12月期)の売上高は3兆1,602億円(前年度比▲12.1%)、営業利益は1,980億円(前年度比▲36.6%)、純利益は833億円(前年度比▲33.3%)と、減収減益となりました。
FY2021のガイダンス(前提:1ドル=105.26円、ユーロ=125.65円)は、以下の通りです。
・売上高:3兆5,000億円(前年度比+10.8%)
・営業利益:1,980億円(前年度比+79.1%)
・純利益:1,400億円(前年度比+68.0%)
DCF法による目標株価は2,940円のため、2021年5月末時点の株価2,560円より高い水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が1.1倍(年率+1%)、FY2020のフリーキャッシュフローマージンである5%が10年間継続することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
ROEとPBRの関係による目標株価は、ROEが9%(FY2017〜2018の数値)とした場合、3,618円となります。
近年の業績悪化によって大幅減配をしましたが、今後は短期的には業績回復が期待できます。