過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出と日本たばこ産業(JT)への投資についてコメントします。
会社概要
日本たばこ産業(Japan Tobacco、2914.T)
ホームページ(IR):リンク先
国:日本
セクター:生活必需品
産業グループ:食品・飲料・タバコ
サブ産業グループ:タバコ
株式時価総額:359億ドル(2021年12月末)
JTは、日本に本拠を置く、大手タバコメーカーです。
(参考)競合他社(タバコ)の株式時価総額(2021年12月末)
株式時価総額 | |
フィリップモリス(PM) | 1,479億ドル |
アルトリア(MO) | 871億ドル |
ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BTI) | 858億ドル |
日本たばこ産業(2914.T) | 359億ドル |
スモア・インターナショナルHD/思摩爾国際(6969.HK) | 305億ドル |
売上高(セグメント、地域別、タバコ売上本数)の推移
FY2021(2021年1-12月期)の売上高は2兆3,248億円と、前年度比+11.1%、過去5年間で年率+1.6%となりました。
セグメント別(その他等除く)の売上高は、以下の通りです。
・国内たばこ:5,675億円、前年度比+1%
・海外たばこ:1兆5,570億円、前年度比+17%
・医薬:804億円、前年度比+2%
・加工食品:1,472億円、前年度比▲1%
セグメント別の売上高構成比は、海外たばこが66%を占めます。
海外たばこ事業の自社たばこ製品の地域別売上高構成比は、欧州(南&西)が17%、欧州(北&中央)が21%、CIS+(ロシア等)が23%を占めます。
国内紙巻販売数量は668億本(前年度比▲3%)、海外総販売数量は4,602億本(前年度比+6%)となりました。
利益(セグメント別)の推移
FY2021(2021年1-12月期)の調整後営業利益は6,104億円と、前年度比+25.4%、過去5年間で年率+0.8%となりました。
営業利益率は26.3%と、前年度の23.3%から改善しました。
セグメント別の調整後営業利益率は、以下の通りです。
FY2021のEPSは191円と、前年度比+9.1%、過去5年間で年率▲4.1%となりました。
キャッシュフローの推移
FY2021(2021年1-12月期)の営業キャッシュフローは5,989億円と、前年度比+15.2%、過去5年間で年率+9.7%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は25.8%と、前年度の24.8%から改善しました。
FY2021のフリーキャッシュフロー(会社定義と異なる)は4,960億円と、前年度比+20.6%、過去5年間で年率+13.3%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は21.3%と、前年度の19.7%から改善しました。
株主還元(配当、自社株買い)の推移
株主還元は配当が中心です。
(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2021の益利回り(PERの逆数)は8.2%、フリーキャッシュフロー利回りは12.0%と、バリュエーション面では割安です。
(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
FY2021の配当性向(利益ベース)は73%と、目標の75%とほぼ同水準です。
(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)
FY2021のDPSは140円と、前年度比▲9.1%、過去5年間で年率+1.5%となりました。
FY2022のDPSは150円(前年度比+7%)の予定です。
(参考)過去5年間の発行済株式数
過去5年間の発行済株式数は、ほぼ横ばいです。
ROICの推移
ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したか(投資効率)を測る指標となります。
正確な計算方法はないため、ここでは、税引後営業利益/投下資本(=運転資本+有形固定資産(リース含む)+無形固定資産+在庫+のれん)として計算しています。
少なくともWACC(加重平均資本コスト)を超えることが絶対条件と言われています。
過去5年間のROICは概ね10%程度と、タバコメーカーとして、投資効率が高いとは言い難い水準です。
有利子負債の推移
有利子負債はやや減少傾向にあり、現金等も増加したことで、純有利子負債は大きく減少しました。
株価上昇率
FY2021の株価上昇率は+10.5%と、世界株式を投資対象とするVT ETF(+16.0%)を下回りました。
過去5年間(2017年1月から2021年12月末)の株価上昇率は年率▲9.6%と、VT(年率+12.0%)を大きく下回りました。
競合他社(タバコ)の株価上昇率(2914.Tは日本円建て、SWMA.STはスウェーデンクローナ建て、IMB.Lはポンド建て、ITC.NS、GGRMはインドルピー建て、033780.KSは韓国ウォン建て、その他はUSドル建て)は、以下の通りです。
日本たばこ産業(JT)の株価上昇率は、2021年の1年間で+10%と、9社平均(+4%)を上回り、9社中第4位となりました。
2019年1月から2021年12月の3年間では▲11%と、9社平均(+1%)を下回り、9社中第5位となりました。
過去10年間(2012年2月から2022年2月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
2015年7月の最高値から最大60%超下落し、その後はほぼ横ばいです。
(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。
DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを8.1%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億円)の推移となります。
① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目▲10%、2年目〜10年目▲2%。11年目以降の永続成長率は0%。
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目▲10%、2年目〜10年目+0%。11年目以降の永続成長率は0%。
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜3年目▲10%、4年目〜10年目▲2%。11年目以降の永続成長率は0%。
メインシナリオの目標株価は2,233円となります。
日本たばこ産業(Japan Tobacco、2914.T)への投資について
FY2021(2020年1-12月期)の売上高は2兆3,248億円(前年度比+11.1%)、調整後営業利益は6,104億円(前年度比+25.4%)となりました。
海外タバコメーカーのフリーキャッシュフローマージンが30%を超えている一方、JTは20%程度と低水準です。
また、ROICは10%程度と、相対的に投資効率は高くありません。
FY2022のガイダンスは、以下の通りです。
・売上高:2兆3,150億円(前年度比▲0.4%)
・調整後営業利益:6,110億円(前年度比+0.1%)
・当期利益:3,560億円(前年度比+5.2%)
DCF法による目標株価は2,233円のため、2022年2月末時点の株価2,120円とほぼ同水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が0.9倍(年率▲1%)、10年後に向けてフリーキャッシュフローマージンが18%まで低下することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
ロシア向け事業により業績悪化となれば、減配になるリスクはあります。
大手タバコメーカーの中では、フィリップモリスが最もクオリティが高いです。