過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とブリティッシュ・アメリカン・タバコへの投資についてコメントします。
会社概要
ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(British American Tobacco、BATS.LN、BTI)
ホームページ(SECファイル):リンク先
国:イギリス
セクター:生活必需品
産業グループ:食品・飲料・タバコ
サブ産業グループ:タバコ
株式時価総額:858億ドル(2021年12月末)
ブリティッシュ・アメリカン・タバコは、イギリスに本拠を置く大手タバコメーカーです。
紙巻タバコの売上本数は低下しているものの、加熱式タバコやベイパー(電子タバコ)等の健康リスクが低減されたタバコの売上本数は大きく増加しています。
2017年に、すでに42%の株式を保有していたレイノルズ・アメリカンを494億ドルで買収しました。
(参考)競合他社(タバコ)の株式時価総額(2021年12月末)
株式時価総額 | |
フィリップモリス(PM) | 1,479億ドル |
アルトリア(MO) | 871億ドル |
ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BTI) | 858億ドル |
日本たばこ産業(2914.T) | 359億ドル |
スモア・インターナショナルHD/思摩爾国際(6969.HK) | 305億ドル |
売上高(製品別、地域別)の推移
FY2021(2021年1-12月期)の売上高は257億ポンドと、前年度比▲0.4%となりました。

製品別の売上高は、以下の通りです。
・紙巻タバコ:220億ポンド、前年度比▲3%
・新しいカテゴリー:21億ポンド、前年度比+42%
・従来のオーラル製品:11億ポンド、前年度比▲4%
・その他:5億ポンド、前年度比+15%

地域別の売上高構成比は、アメリカが46%を占めます。

利益の推移
FY2021の営業利益は102億ポンドと、前年度比+2.7%となりました。
営業利益率は39.8%と、前年度の38.6%から改善しました。

FY2021の非GAAP EPSは3.29ポンドと、前年度比▲0.8%、過去5年間で年率+5.9%となりました。

キャッシュフローの推移
FY2021の営業キャッシュフローは97億ポンドと、前年度比▲0.7%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は37.8%と、前年度の38.0%とほぼ同水準となりました。

FY2021のフリーキャッシュフローは90億ポンドと、前年度比▲0.7%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は34.9%と、前年度の35.0%とほぼ同水準となりました。

株主還元(配当、自社株買い)の推移
株主還元は配当のみです。

(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2021の益利回り(PERの逆数)は7.9%、フリーキャッシュフロー利回りは10.4%と、バリュエーション面では割安です。
配当利回りは5.8%と高い水準です。

(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
過去5年間の配当性向は、利益・キャッシュフローベースともに、100%を下回りました。

(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)
FY2021のDPSは2.18ポンドと、前年度比+1.0%、過去5年間で年率+5.2%となりました。

(参考)過去5年間の発行済株式数
過去4年間の発行済株式数は、ほぼ横ばいです。

ROICの推移
ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したか(投資効率)を測る指標となります。
正確な計算方法はないため、ここでは、税引後営業利益/投下資本(=運転資本+有形固定資産(リース含む)+無形固定資産+在庫+のれん)として計算しています。
少なくともWACC(加重平均資本コスト)を超えることが絶対条件と言われています。
レイノルズ・アメリカン買収後のFY2018以降、ROICは低水準です。

有利子負債の推移
有利子負債は397億ポンドと巨額ですが、徐々に減少中です。

株価上昇率
FY2021の株価上昇率(ADR、USドルベース)は▲0.2%と、S&P500(+26.9%)を下回りました。
過去5年間(2017年1月から2021年12月末)の株価上昇率は年率▲7.9%)と、世界株式を投資対象とするVT ETF(年率+12.0%)を大きく下回りました。

競合他社(タバコ)の株価上昇率(2914.Tは日本円建て、SWMA.STはスウェーデンクローナ建て、IMB.Lはポンド建て、ITC.NS、GGRMはインドルピー建て、033780.KSは韓国ウォン建て、その他はUSドル建て)は、以下の通りです。
ブリテッシュ・アメリカン・タバコ(BTI)の株価上昇率は、2021年の1年間で▲0%と、9社平均(+4%)を下回り、9社中第7位となりました。
2019年1月から2021年12月の3年間では+17%と、9社平均(+1%)を上回り、9社中第3位となりました。

過去10年間(2012年3月から2022年2月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
2017年5月の最高値から最大50%超下落し、その後はやや戻しています。

(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。

DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを8.7%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億ポンド)の推移となります。

① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜10年目+1%。11年目以降の永続成長率は0%。
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜10年目+3%。11年目以降の永続成長率は0%。
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜10年目▲1%。11年目以降の永続成長率は0%。
メインシナリオの目標株価は31ポンドとなります。
・メインシナリオ:31ポンド
・アップサイドシナリオ:38ポンド
・ダウンサイドシナリオ:24ポンド
ブリテッシュ・アメリカン・タバコ(British American Tobacco、BATS.LN、BTI)への投資について
FY2021(2021年1-12月期)の売上高は257億ポンド(前年度比▲0.4%)、非GAAP EPSは3.29ポンド(前年度比▲0.8)となりました。
営業キャッシュフローマージン、フリーキャッシュフローマージンともに30%超と高水準で、キャッシュ創出力が潤沢です。
2017年の大型買収によって、財務体質が悪化し、投資効率の指標であるROEやROICが大きく低下したものの、キャッシュフロー創出力も潤沢のため、多額の配当金を支払いながらも借金返済は可能で、実際にここ数年間の有利子負債は減少し続けています。
DCF法による目標株価は31ポンドのため、2022年2月末時点の株価33ポンドとほぼ同水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が1.1倍(年率+1%)、FY2021のフリーキャッシュフローマージンが今後10年間継続することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
ポンド建ての株価はこの1年間で大きく上昇したことから割安感は薄れました(ADRはほぼ横ばい)。
大手タバコメーカーの中では、フィリップモリスが最もクオリティが高いです。


