過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出と三井物産への投資についてコメントします。
会社概要
三井物産(Mitsui & Co、8031.T)
ホームページ(有報):リンク先
国:日本
セクター:資本財・サービス
産業グループ:資本財
サブ産業グループ:商社・流通業
株式時価総額:3.2兆円(日本ランキング第40位、2020年12月末)
三井物産は、日本に本拠を置く大手総合商社です。
事業セグメントは、鉄鋼製品(インフラ鋼材、自動車部品等)、金属資源(鉄鉱石、石炭、銅、ヴァーレからの配当等)、エネルギー(石油、天然ガス等)、機械/インフラ(自動車、産業機械等)、化学品(石油化学原料等)、生活産業(食料、繊維等)、次世代/機能推進(資産運用、リース、保険等)に分けられます。
(参考)競合他社(商社・流通業)の株式時価総額(2021年6月末)
株式時価総額 (億ドル) | |
伊藤忠(8001.T) | 428 |
三菱商事(8058.T) | 403 |
三井物産(8031.T) | 372 |
アシュテッド・グループ(AHT.L) | 322 |
ファスナル(FAST) | 299 |
ファーガソン(FERG) | 311 |
ユナイテッド・レンタルズ(URI) | 231 |
W.W.グレインジャー(GWW) | 228 |
住友商事(8053.T) | 167 |
豊田通商(8015.T) | 167 |
丸紅(8002.T) | 151 |
売上高の推移
FY2020(2020年4月-2021年3月期)の売上高は8兆0,102億円と、前年度比▲5.6%となりました。

資源(原油、ガス、鉄鉱石、石炭、銅)価格の推移
FY2020(4四半期の平均値、2020年4-6月〜2021年1-3月)の原油と天然ガスの価格は、以下の通りです。
・原油(JCC、日本輸入原油の平均CIF価格):43ドル/bbl、前年度比▲37%
・原油(WTI):42ドル/bbl、前年度比▲23%
・天然ガス(ヘンリーハブ):2.3ドル/百万btu、前年度比+3%

FY2020(4四半期の平均値、2020年4-6月〜2021年1-3月)の鉄鉱石、原料炭、一般炭、銅の価格は、以下の通りです。
・鉄鉱石:128ドル/トン、前年度比+35%
・原料炭:119ドル/トン、前年度比▲30%
・一般炭:69ドル/トン、前年度比▲27%
・銅:6,879ドル/トン、前年度比+17%

資源(原油、ガス、鉄鉱石、石炭、銅)生産量の推移
FY2020の原油生産量は6.8万バレル/日、ガス生産量は18.9万バレル/日となりました。
連結原油(期ずれ考慮)1ドルの変動で±25億円の損益インパクトです。
天然ガス(ヘンリーハブ)0.1ドル/百万btuの変動で±11億円の損益インパクトです。

FY2020の鉄鉱石生産量は5,820万トン、うち豪州鉄鉱石が4,150万トン、Valeが1,670万トンとなりました。
鉄鉱石価格1ドルの変動で±22億円の損益インパクト(Valeからの受取配当金に対する影響は対象外)です。

FY2020の石炭生産量は1,220万トン、うち原料炭が900万トン、一般炭が320万トンとなりました。
原料炭1ドルの変動で±4億円の損益インパクトです。
一般炭1ドルの変動で±1億円の損益インパクトです。

FY2020の銅生産量は15.4万トン、銅価格(3ヶ月遅れで業績反映のため、2020年1月から2020年12月の平均価格)は6,169ドルとなりました。
銅100ドルの変動で±7億円の損益インパクトです。

FY2020の生産量×価格は、鉄鉱石が74億ドルと最も大きな金額であり、業績は鉄鉱石の価格変動に大きな影響を受けます。

利益(セグメント別)の推移
FY2020の純利益は3,915億円と、前年度比▲19.9%、過去5年間で年率+10.8%となりました。

セグメント別の純利益は、以下の通りです。
・鉄鋼製品:21億ドル、前年度比▲55%
・金属資源:1,799億ドル、前年度比▲2%
・エネルギー:272億ドル、前年度比▲55%
・機械・インフラ:459億ドル、前年度比▲47%
・化学品:435億ドル、前年度比+95%
・生活産業:127億ドル、前年度比▲60%
・次世代・機能推進:502億ドル、前年度比+244%

セグメント別(その他等除く)の純利益構成比は、金属資源が50%占め、市況の影響を受けやすい金属資源とエネルギーの比率が58%と高い水準です。

キャッシュフローの推移
FY2020の営業キャッシュフローは7,727億円と、前年度比+46.8%、過去5年間で年率+5.7%となりました。

株主還元(配当、自社株買い)の推移
FY2020は、713億円の自社株買いを実施しました。

(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2020の益利回り(PERの逆数)は8.7%と、バリュエーション面で割安感があります。
FY2020の配当利回りは3.7%です。

(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
過去5年間の配当性向は、50%を下回りました。

(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)
FY2020のDPSは85円と、前年度比+6.3%、過去5年間で年率+5.8%となりました。
FY2021のDPSは90円(前年度比+5.9%)の予定です。

(参考)過去5年間の発行済株式数
発行済株式数は、過去5年間で年率▲1.2%となりました。

ROEの推移
FY2020のROEは8.0%となりました。

株価上昇率
FY2020(2020年4月から2021年3月末)の株価上昇率は+53.1%と、世界株式を投資対象とするVT ETFの上昇率(+54.9%)を下回りました。
過去5年間(2016年4月から2021年3月末)の株価上昇率は年率+12.2%と、VT ETF(年率+11.0%)を上回りました。

競合他社(商社・流通業)の株価上昇率(伊藤忠、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅は日本円建て、FERG.Lはポンド建て、その他はドル建て)は、以下の通りです。
三井物産の株価上昇率は、2020年の1年間で▲3%と、9社平均(+10%)を下回り、9社中第6位となりました。
2018年1月から2020年12月の3年間では+3%と、9社平均(+25%)を下回り、9社中第6位となりました。

過去10年間(2011年5月から2021年4月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
最高値から25%程度下落すると反発する傾向にあるため、その時が狙い目です。

(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。

BPSとPBRの推移
以下のグラフは、BPSとPBR(株価は会計年度末)の推移となります。
FY2020のBPSは2,739ドルと、前年度比+22.5%、過去5年間で年率+7.8%となりました。

目標株価
以下のグラフは、株式市場全体および11セクターのPBRと予想ROE(2021年3月末、MSCI)の散布図となります。
ROEが高いほど、PBRも高いことが言えます(決定係数は0.847と、説明力は非常に高い)。
金融セクターやエネルギーセクターは、ROEが低いためPBRの観点で割安に放置されています。

メインシナリオの予想ROEを8%、アップサイドシナリオの予想ROEを10%、ダウンサイドシナリオの予想ROEを6%とし、回帰式をもとに目標株価を推計しました。
メインシナリオの目標株価は3,328円となります。

三井物産(Mitsui & Co、8031.T)への投資について
FY2020の純利益は3,355億円(前年度比▲14.3%)となりました。
鉄鉱石の価格は上昇したものの、原油・ガス価格の下落によってエネルギーが足を引っ張りました。
FY2021のガイダンスは、以下の通りです。
・純利益:4,600億円
DCF法による目標株価は3,328円のため、2021年4月末時点の株価2,304円より高い水準です。
鉄鉱石など資源価格が大きく上昇していることから、FY2021の決算は期待できます。
日本の個人投資家は三菱商事や三井物産を好みますが、大手総合商社の中では、伊藤忠商事が最もクオリティが高いです。

