過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とアルトリアへの投資についてコメントします。
会社概要
アルトリア(Altria、MO)
ホームページ(SECファイル):リンク先
国:アメリカ
セクター:生活必需品
産業グループ:食品・飲料・タバコ
サブ産業グループ:タバコ
株式時価総額:762億ドル(2021年12月末)
アルトリアは、アメリカに本拠を置く大手タバコメーカーで、電子タバコのジュールや大麻企業のクロノス、ビール最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブの株式を一部所有しています。
フィリップモリスとアルトリアはもともと同じ会社でしたが、2008年に、アルトリア・グループの国際部門として、フィリップモリスをスピンアウトしました。
そのため、アルトリアはアメリカ、フィリップモリスはアメリカ以外で事業を手掛けています。
なお、2019年にフィリップモリスとアルトリアの対等合併に向けて協議が行われましたが、合併は断念となりました。
紙巻きタバコから、利益率の高い煙の出ない製品へ売上がシフト中です。
2018年に電子タバコで急成長していたジュールの株式を128億ドル(35%)で取得しましたが、わずか1年で86億ドルも減損しました。
(参考)競合他社(タバコ)の株式時価総額(2021年12月末)
株式時価総額 | |
フィリップモリス(PM) | 1,479億ドル |
アルトリア(MO) | 871億ドル |
ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BTI) | 858億ドル |
日本たばこ産業(2914.T) | 359億ドル |
スモア・インターナショナルHD/思摩爾国際(6969.HK) | 305億ドル |
売上高(セグメント別)の推移
FY2021(2021年1-12月期)の売上高は260億ドルと、前年度比▲0.5%、過去5年間で年率+0.2%となりました。
セグメント別の売上高は、以下の通りです。
・紙巻タバコ:229億ドル、前年度比▲1%
・加熱式タバコ等:26億ドル、前年度比+3%
・ワイン:5億ドル、前年度比▲20%
利益の推移
FY2021の営業利益は116億ドルと、前年度比+6.3%、過去5年間で年率+5.7%となりました。
営業利益率は44.4%と、前年度の41.6%から改善しました。
セグメント別の営業利益率は、以下の通りです。
FY2021の非GAAP EPSは4.61ドルと、前年度比+5.7%、過去5年間で年率+8.8%となりました。
キャッシュフローの推移
FY2021の営業キャッシュフローは84億ドルと、前年度比+0.2%、過去5年間で年率+17.1%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は32.3%と、前年度の32.1%から改善しました。
FY2021のフリーキャッシュフローは82億ドルと、前年度比+1.0%、過去5年間で年率+17.8%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は31.7%と、前年度の31.2%から改善しました。
株主還元(配当、自社株買い)の推移
配当が中心ですが、タバコメーカーとしては珍しく自社株買いも実施しています。
(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2021の非GAAP 益利回り(PERの逆数)は9.7%、フリーキャッシュフロー利回りは9.4%と、バリュエーション面では割安です。
配当利回りは7.4%と非常に高い水準です。
(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
FY2021の配当性向は、利益、キャッシュフローベースともに80%以下です。
(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)
FY2021のDPSは3.52ドルと、前年度比+3.5%、過去5年間で年率+8.4%となりました。
52年連続増配中です。
(参考)過去5年間の発行済株式数
過去5年間の発行済株式数は年率▲1.1%となりました。
ROICの推移
ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したか(投資効率)を測る指標となります。
正確な計算方法はないため、ここでは、税引後営業利益/投下資本(=運転資本+有形固定資産(リース含む)+無形固定資産+在庫+のれん)として計算しています。
少なくともWACC(加重平均資本コスト)を超えることが絶対条件と言われています。
過去5年間のROICは概ね30%程度となっており、投資効率が高いです。
有利子負債の推移
ジュールの株式取得(FY2018)によって有利子負債が100億ドル超増加し、その後はほぼ横ばいです。
売上高およびEPSの実績値とコンセンサスの推移
売上高の実績値(コンセンサス比)は、過去12四半期中、7勝、5敗です。
非GAAP EPSの実績値(コンセンサス比)は、過去12四半期中、7勝、3敗、2引き分けです。
売上高(億ドル) | 非GAAP EPS(ドル) | |||||
実績値 | コンセンサス | 勝敗 | 実績値 | コンセンサス | 勝敗 | |
2019Q1 | 43.9 | 46.0 | × | 0.90 | 0.93 | × |
2019Q2 | 51.9 | 50.8 | ○ | 1.10 | 1.10 | ▲ |
2019Q3 | 54.1 | 53.4 | ○ | 1.19 | 1.15 | ○ |
2019Q4 | 48.0 | 48.9 | × | 1.02 | 1.02 | ▲ |
2020Q1 | 50.5 | 46.2 | ○ | 1.09 | 0.99 | ○ |
2020Q2 | 50.6 | 50.8 | × | 1.09 | 1.06 | ○ |
2020Q3 | 56.7 | 55.3 | ○ | 1.19 | 1.16 | ○ |
2020Q4 | 50.5 | 50.1 | ○ | 0.99 | 1.02 | × |
2021Q1 | 48.8 | 49.9 | × | 1.07 | 1.05 | ○ |
2021Q2 | 56.0 | 53.6 | ○ | 1.23 | 1.17 | ○ |
2021Q3 | 55.3 | 57.3 | × | 1.22 | 1.26 | × |
2021Q4 | 50.9 | 50.0 | ○ | 1.09 | 1.08 | ○ |
株価上昇率
FY2021の株価上昇率は+15.6%と、S&P500(+26.9%)を下回りました。
過去5年間(2017年1月から2021年12月末)の株価上昇率は年率▲6.9%と、S&P500(年率+16.3%)を大きく下回りました。
競合他社(タバコ)の株価上昇率(2914.Tは日本円建て、SWMA.STはスウェーデンクローナ建て、IMB.Lはポンド建て、ITC.NS、GGRMはインドルピー建て、033780.KSは韓国ウォン建て、その他はUSドル建て)は、以下の通りです。
アルトリア(MO)の株価上昇率は、2021年の1年間で+16%と、9社平均(+4%)を上回り、9社中第1位となりました。
2019年1月から2021年12月の3年間では▲4%と、9社平均(+1%)を下回り、9社中第4位となりました。

過去10年間(2012年3月から2022年2月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
2017年5月の最高値から最大50%超下落し、その後は株価が戻しています。
(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。
DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを8.5%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億ドル)の推移となります。
① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜10年目+2%。11年目以降の永続成長率は0%。
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜10年目+5%。11年目以降の永続成長率は0%。
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜10年目+0%。11年目以降の永続成長率は0%。
メインシナリオの目標株価は45ドルとなります。
・メインシナリオ:45ドル
・アップサイドシナリオ:60ドル
・ダウンサイドシナリオ:37ドル
アルトリア(Altria、MO)への投資について
FY2021の売上高は314億ドル(前年度比+9.4%)、非GAAP EPSは6.08ドル(前年度比+17.6%)となりました。
営業キャッシュフローマージン、フリーキャッシュフローマージンともに30%超と高水準で、キャッシュ創出力が潤沢です。
また、ROICは30%程度と、投資効率は非常に高いです。
なお、急増した有利子負債が減少していくか要注目です。
FY2022のガイダンスは、以下の通りです。
・非GAAP EPS:4.79〜4.93ドル(+4〜7%)
DCF法による目標株価は45ドルのため、2022年2月末時点の株価51ドルより低い水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が1.1倍(年率+1%)、10年後に向けてフリーキャッシュフローマージンが35%まで上昇することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
高い配当利回りや連続増配は魅力的です。
大手タバコメーカーの中では、フィリップモリスが最もクオリティが高いです。


