過去の業績の推移を解説し、目標株価の算出とスリーエムへの投資についてコメントします。
会社概要
スリーエム(3M、MMM)
ホームページ(SECファイル):リンク先
国:アメリカ
セクター:資本財・サービス
産業グループ:資本財
サブ産業グループ:コングロマリット
浮動株調整後株式時価総額:1,007億ドル(2020年12月末、MSCI)
スリーエムは、アメリカに本拠を置く、研磨材や接着剤、自動車/電子用製品、医療用機器、文具・家庭用品(ポストイットやスコッチ)などを製造・販売する複合企業です。
大きく4つのセグメントに分けられます。
① 安全/産業
研磨材、接着剤、電力関連製品 etc
② 輸送/電子機器
フッ素化学製品、自動車内外装関連、液晶ディスプレイ関連 etc
③ ヘルスケア
医療用製品、歯科用製品 etc
④ 消費者
文具用品、家庭用品 etc
資本財・サービスセクターで第7位の浮動株調整後株式時価総額で、コングロマリットに占めるスリーエムの浮動株調整後株式時価総額比率は15%です。

売上高(セグメント別、地域別)の推移
FY2020(2020年1-12月期)の売上高は322億ドルと、前年度比+0.1%、過去5年間で年率+1.2%となりました。

FY2020の増収率(現地通貨建て、オーガニック)は前年度比▲1.7%、うち量は▲2.3%、価格は+0.6%となりました。

セグメント別の売上高は、以下の通りです。
・安全/産業:118億ドル、前年度比+2%
・輸送/電子機器:88億ドル、前年度比▲8%
・ヘルスケア:83億ドル、前年度比+12%
・消費者:53億ドル、前年度比+4%

セグメント別の売上高は、安全/産業が34%、輸送/電子機器が26%、ヘルスケアが24%、消費者が16%を占めます。

地域別の売上高構成比は、アメリカ大陸が51%、アジアパシフィックが30%、欧州/中東/アフリカが19%を占めます。

利益(セグメント別)の推移
FY2020の営業利益は72億ドルと、前年度比+16.0%、過去5年間で年率+0.6%となりました。
営業利益率は22.3%と、前年度の19.2%から改善しました。

セグメント別の非GAAP EBITDAマージンは、以下の通りです。

FY2020のEPSは9.25ドルと、前年度比+18.4%、過去5年間で年率+4.1%となりました。

キャッシュフローの推移
FY2020の営業キャッシュフローは81億ドルと、前年度比+14.8%、過去5年間で年率+4.8%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は25.2%と、前年度の22.0%から改善しました。

FY2020のフリーキャッシュフローは66億ドルと、前年度比+23.1%、過去5年間で年率+5.9%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は20.5%と、前年度の16.7%から改善しました。

株主還元(配当、自社株買い)の推移
自社株買いは縮小傾向です。

(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2020の益利回り(PERの逆数)は5.3%、フリーキャッシュフロー利回りは6.5%です。
FY2020の配当利回りは3.4%です。

(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向
過去5年間の配当性向は、利益・キャッシュフローベースともに、50〜70%程度です。

(参考)過去5年間のDPS(1株当たり配当金)
FY2020のDPSは5.88ドルと、前年度比+2.1%、過去5年間で年率+7.5%となりました。

(参考)過去5年間の発行済株式数
発行済株式数は、過去5年間で年率▲1.8%となりました。

ROICの推移
ROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使ってどれだけ利益を生み出したか(投資効率)を測る指標となります。
正確な計算方法はないため、ここでは、税引後営業利益/投下資本(=運転資本+有形固定資産(リース含む)+無形固定資産+在庫+のれん)として計算しています。
少なくともWACC(加重平均資本コスト)を超えることが絶対条件と言われています。
過去5年間のROICは15%程度と、投資効率は比較的高いです。

売上高およびEPSの実績値とコンセンサスの推移
以下のグラフは、売上高のコンセンサスおよび実績値の推移となります。
過去8四半期中、5勝、3敗です。

以下のグラフは、EPSのコンセンサスおよび実績値の推移となります。
過去8四半期中、6勝、2敗です。

以下のグラフは、EPSのコンセンサスおよび実績値の推移となります。
過去8四半期中、7勝、1敗です。

株価上昇率
FY2020(2020年1月から2020年12月末)の株価上昇率は▲0.9%と、S&P500(+16.3%)を下回りました。
過去5年間(2016年1月から2020年12月末)の株価上昇率は年率+3.0%と、S&P500(年率+12.9%)を大きく下回りました。

競合他社(コングロマリット)の株価上昇率(SIE.DEはユーロ建て、6501.T、6502.Tは日本円建て、0001.HK、0267.HKは香港ドル建て、その他はUSドル建て)は、以下の通りです。
スリーエム(MMM)の株価上昇率は、2020年の1年間で▲1%と、9社平均(▲8%)を上回り、9社中第4位となりました。
2018年1月から2020年12月の3年間では▲26%と、9社平均(▲7%)を下回り、9社中第6位となりました。

過去10年間(2011年6月から2021年5月)のドローダウン(最高値からの下落率、月末株価)の推移は、以下の通りです。
資本財セクターは景気感応度が高いため、株式市場全体の下落相場には、より大きなドローダウンになる傾向があります。

(参考)株価の推移(月末株価)
通常の目盛り表示の場合、近年の株価のブレ幅(上昇もしくは下落)が過去より非常に大きいと錯覚するため、対数目盛りで表示しています。

DCF法による目標株価
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来に渡って生み出すキャッシュフローを割り引く(WACC、加重平均資本コスト)ことで理論価格を算出します。
以下のシナリオに基づき、フリーキャッシュフローの現在価値とネット有利子負債を合計して株主価値を算出し、株主価値を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価を算出します。
なお、WACCを5.5%、金利が1%上昇した場合は6.4%と推計しました。
以下のグラフは、各シナリオのフローキャッシュフロー(億ドル)の推移となります。

① メインシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+7%、2年目〜5年目+3%、6年目〜10年目+1%。11年目以降の永続成長率は0%。
② アップサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目〜3年目+7%、4年目〜10年目+3%。11年目以降の永続成長率は0%。
③ ダウンサイドシナリオ
フリーキャッシュフローの成長率:1年目+7%、2年目〜10年目+0%。11年目以降の永続成長率は0%。
メインシナリオの目標株価は231ドルとなります。

スリーエム(3M、MMM)への投資について
FY2020(2020年1−12月期)の売上高は322億ドル(前年度比+0.1%)、EPSは9.25ドル(前年度比+18.4%)と、増収増益となりました。
FY2021のガイダンスは、以下の通りです。
・売上高:+5〜8%
・EPS:9.20〜9.70ドル (コンセンサス9.62ドル)
DCF法による目標株価は231ドルのため、2021年5月末時点の株価203ドルより高い水準です。
なお、メインシナリオは、10年後の売上高が1.3倍(年率+2%)、FY2020のフリーキャッシュフローマージン10年間継続することを想定したので、売上高またはフリーキャッシュフローマージンがさらに上向けばより高い株価上昇が期待できます。
ここ数年間売上高が伸びておらず、3年連続で株価も市場全体を大きく下回っていますが、割安感はあるため、市場全体のアウトパフォームを期待したいところです。


